第4話 来ました、ラーニング!

「やって来ました、近所の村。まさか徒歩二時間で来れるとはなあ」


「近くて良かったな!」


 俺とエリカで並んで、村の姿を眺める。


「時にエリカ、それがフル装備……?」


「? そうだぞ?」


 革の袖なしベスト、そして短剣。

 他は普段着のまま。


「騎士……?」


「心は騎士だ!」


「なるほど、心は目に見えないからね!」


「そうだ! ドルマはいいことを言うなあ。私が欲しいセリフを言ってくれる!」


 エリカが微笑んで、俺の肩をつんつんした後で真顔になった。


「そういうドルマこそ、普段着じゃないか」


「鎧なんて高価なもの買えないからな……」


「武器はその棒?」


「かなりいい感じの棒を拾ったんだ」


「そうか! ドルマにはよく似合ってるぞ!」


「誉めてるのかdisってるのかかなり微妙なところが来たな」


 でもエリカは表裏がない性格だ。

 これは誉めてるんだろうな。

 そういうことで、村に入っていった。


「こんちはー。冒険者でーす」


「おー、よく来た! よく来てくれた!」


 ドタバタと現れたのは、老夫婦だった。

 彼らは俺たちの前に現れると、露骨にキョロキョロし始めた。


「おんやー? 冒険者の姿が見えねえが……」


「普段着の兄ちゃんと姉ちゃんしかいないねえ」


「その普段着である兄ちゃんと姉ちゃんが冒険者だぞ」


 現実逃避しているらしき老夫婦に、俺は現実を伝えてやった。


「そんな……。もっとちゃんとした冒険者が来ると思ってたのに……」


「ナイフと棒切れぶら下げた二人組しか来ないなんて」


 そんなにガックリしないで欲しい。

 依頼内容があまりにも曖昧で、どうやら他の冒険者達に避けられていたようなのだ。

 お陰で俺たちが引き受けられた。


「仕方ない……じゃあ、頼むとするかのう……」


 じいさんが渋々、俺たちを案内してくれた。

 だが、ネガティブな対応には慣れっこの俺たち。

 全く気にしないのだ。


「ところでおじいさん、その抱えている瓶は一体?」


「これか? これはわし秘蔵の梅酒じゃ! 長い間かけて育てて、ようやく飲めるようになったんじゃ! そう思った矢先に、井戸がよく分からんモンスターに占領されてしまった……」


「よく分からないモンスターだって!? どういうモンスターなんだ!」


 これに対して、おばあさんが首をひねる。


「さあねえ……? 私ら、村の外にはあまり出ないから。だけど気がついたら、いつの間にか井戸にいたんだよ。近づくと飛び出してきて暴れるし、その時に井戸水をこんな、渦巻きにして飛ばしてくるんだよ。これをご覧」


 おばあさんが指さした先には、家々に刻まれた傷跡がある。

 あれが井戸水によってつけられた傷跡……?


「これは大変そうな気配がしないだろうか」


「楽な仕事なんかない! どんなことでも全力で挑むだけだ!」


「それは確かに。エリカはいい事を言うなあ。それで、怪我人とか死者とか出てるの?」


「この村は年寄りばっかりじゃからな……。モンスターが出てきた瞬間にみんな腰を抜かしたんで、渦潮みたいなのが頭の上を通過していったわ……」


「お陰で怪我人はいないんだけどねえ……。腰を痛めちまって……あいたたた」


 色々情報は集まった気がする。

 エリカを呼んで、まとめることにした。


「まず、井戸にいるモンスターは近づくと攻撃してくる」


「慎重だな、ドルマ……!」


「俺、普段着だから当たると死ぬもんな」


「そうか! ……ということは、私も当たると死ぬ?」


「死ぬだろうな」


「慎重に行こう!」


「物わかりがいいなあ。で、こう、しゃがむとモンスターの攻撃は当たらなくなる。だけど、俺たちもしゃがんでいると戦えない。これはどうにかして、戦える状況に持ち込まないといけないわけだ」


「ふむ……。どうすればいいの?」


「情報を集めよう。怪我人がいないらしいから、誰か立ったままでモンスターの攻撃を凌いだ人がいるはずだ」


 くだんの井戸を遠巻きに眺めながら、周囲の家々を訪ねてみることにした。

 どの家でも、俺たちが冒険者だと名乗ると驚かれた。


「そんな軽装で……。仕事を舐めてるのかい!?」


「防具を買うお金が……」


「あっ……。苦労してるんだねえ……。これ、食べていくかい? うちの昼ごはんだけど」


 近所の家の奥さんに同情され、昼食をもらえることになった。

 そこで、俺の目は見逃さなかった。


「奥さん、これ、鍋に傷が入ってるけど」


「ああ、これねえ! 実はご飯を作りすぎたから、おすそ分けに向かう途中で、井戸のモンスターの縄張りに入っちゃったらしくて……」


 井戸水の攻撃が飛んできたのだそうだ。

 だが、それは鍋にあたって弾かれた。


「エリカ、これは……」


「ああ! 防具が見つかってしまったな!」


「奥さん、鍋を貸してくれ!」


「えっ!? な、鍋を!?」


 鍋の中身は美味しくいただいた。

 そして、これを洗って乾かして、紐で体に縛り付ける。


「よし!」


「よし!」


 エリカと互いを指差し確認し合う。


「よし、それじゃあ行くぞドルマ! ついて来い!」


「あっ、危ない危ない!」


 迷いなく井戸に駆け出すエリカを慌てて引き止める。

 その勢いで、一歩前に出た俺。


 そこがちょうど、井戸に潜んだモンスターの縄張りだったようだ。


 井戸の中から溢れ出す、真っ青なモンスター。

 そいつは竜巻みたいに回転しながら盛り上がり、青い顔に真っ赤な口でニヤリと笑ってみせた。


 一瞬の間も無く、繰り出されるのは渦巻く井戸水。

 刃になるほど高密度に圧縮されたそいつが、回転しながら俺へと炸裂した。


 鍋でちょうど弾けた!

 これ、鍋がなければ体が真っ二つだったねえ!


『ラーニング!!』


「は!?」


 俺の脳内に響き渡る言葉。

 以前、俺の視界に見えていた文字が、再び出現する。


名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:すっぴん

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター NEW!


 の……能力が、増えてるーっ!?




 

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