先生
優美子先生は私の恋愛相談に乗ってくれるくらい、生徒思いで大好きでした。
幼なじみだから踏み出せないとか、なんか最近意地悪しちゃうとか、めっちゃめんどくさい生徒だったと思います。でも真摯になんでも教えてくれました。言われたこと全部実践してみたけど、紘には「いつもと違うけど大丈夫」って心配されちゃうんです。私のやり方がまずいのかな? それとも紘が優しいだけなのかな。それでも一緒に居れる時間が増えた気がして幸せです。
先生。どうして不倫なんかしたんですか。
紘から聞いたこと、私もすごく驚きました。そしてすごく悲しかったです。
先生の訃報はもっともっと悲しくて涙が溢れました。紘から未来を聞いた私が伊藤先生を止められなかったことが悪かったんです。私が無能なせいで、本当にごめんなさい。
ぼんやりとした月明かりに包まれながら中学生時代の日記の一節を読み返す。
ワタシはあいつを殺す
上から蛍光ペンでそんな走り書きがされている。
紘が優美子先生の死を予言した日の放課後、私は伊藤先生の乗った車を見つけた。
「気をつけて帰れよ」
伊藤先生は仮面を被った最低な男。この優しい声かけも全部偽物なのだ。
「先生話いいですか?」
トラ助さえ救えていないのに、私は大人の男を相手にした。紘の言った未来を絶対に阻止するため一人で。
「どうなるかわからせてやる」
私に記憶があったのは、伊藤先生から狼のような低い声を聞いたときまでだった。
次の瞬間、私は病院にいた。どうやら病院の待合室で待機しているところだ。すぐ側には泣き崩れている夫婦がいて、掠れた声で「お姉ちゃんも怖かったね」とおばさんに励まされる。まったく意味がわからなかった。
霊安室に横たわる優美子先生を見たら、混乱して目の前は真っ暗になった。
そこでまた守れなかったんだって気づいた。そして何度も紘に泣きついた。紘は髪を撫でながら、全部背負い込んで受け止めてくれた。
私の記憶のない空白の時間、きっとそこで二重人格が生まれたのだろう。
窓枠から隙間風が流れて寒くなり毛布にくるまった。スマホを開く。穂波さんに送った『今日はごめんなさい』というメッセージを確認しても既読はついていない。
「やっちゃった」
穂波さんには二重人格の話は伝わっていなかったのだろう。それに突然友人から頬を叩かれて状況が飲み込めるはずもない。
「大好きで大嫌いっていったいどうしたら……」
月光に照らされた夜は寝付けなかった。
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