第8話
「全っ然眠れなかった……」
うとうとしてはハッと起きて、少し眠ったと思ったらハッと起きてを一晩中繰り返した。
身体的にも精神的にも疲れているはずなのに。フワフワな寝心地の良いベッドなのに。
もう外は明るくなっている。
もしかしたらあの扉からヴェルメリオ様が来るかもしれない。
そう思うと眠気がどこかに行ってしまうのだ。
眠れそうにないしもう起きよう。
とりあえず部屋から出られるように着替えようと手近にあるクローゼットを開けてみると、キラキラフリフリ。
どこに着ていくのかわからないくらいとっても素敵なドレスが現れた。
「……普段着はこっちかな?」
隣を開けるとこれまた華やかな羽やリボンのついた帽子やストールがで出てきた。
「こっちは?」
こっちは靴だ。キラキラピカピカでどうして靴をこんなに華やかにするのかわからない。
だめだ。自分で着られそうな服が1着もない。
ラナさんも朝来るって言ってたし、諦めて大人しく待っていようとベッドに戻ったところでコンコンッとドアが鳴った。
「失礼致します。あら、もう起きてらしたんですね」
そう言って水の入ったオシャレな桶をサイドテーブルに置いてくれる。これで顔を洗うみたい。至れり尽くせりだ。
「さて、お着替えをしましょうか」
そう言って出てきたのはさっき私が見たキラキラフリフリのドレス達。
これが、普段着、なの……??
「どちらがよろしいですか?」なんて聞かれてもどれもよろしくない。
いや、とってもかわいいんだけど、私が今から着るとなるとね……?
いつまで経ってもキラキラフリフリしか出てこないので、仕方なく1番シンプルで丈が短く動きやすそうなものを選んだ。
短いと言ってもくるぶし位まであるんだけどね。
着替えを手伝ってもらった後、ヘアセットにナチュラルなメイクまでしてもらい、これが私!? というような変貌を遂げた後、食事をする部屋に案内される。
丈の短いドレスにしてよかった。長いのを選んでいたら裾を踏んで今頃ひっくり返っていたかもしれない。
食堂に入ると綺麗な細工のある長いテーブルに沢山の椅子が並んでいる。
10人以上座れそうだ。
「さあ、こちらへどうぞ」
そう言ったラナさんはその綺麗な長いテーブルのちょうど真ん中あたりにある椅子を引いた。
「えっ、ここで食べるんですか?」
絶対私が使っていいテーブルじゃないはず。
ラナさんはまだ勘違いしたままらしい。
「もちろんです。さ、もうお料理が運ばれてきますよ」
このまま勘違いしてては大変だ。
ラナさんはヴェルメリオ様に話を聞いた方がいい。
「あの、ヴェルメリオ様は……?」
「ご主人様は昨晩急な仕事が入ってお城へ呼ばれました。帰ってくるのは10日ほど先になるとのことです」
タイミングッ!!
なんでこんな時に!!
「あの、ラナさんは勘違いしてるんです。私はこんな扱いをされるような身分じゃありません」
「いいえ。あの坊っちゃまが私に世話をしろと言ったんですもの、勘違いなんかじゃありませんよ。こんな来てすぐに仕事でいなくなってしまって不安でしょう。でも大丈夫ですよ。その間私達がしっかりとお世話させていただきますから」
ちがーーーう!!!
いや、でも私にとってはいいのか?
きっとヴェルメリオ様が戻ったら間違いに気づいて下働きかなんかをすることになるはず。
それか特殊な趣味の相手をさせられるか。
こんなふうに生活できるのもあと10日なんだから、この10日間は美味しいものをいっぱい食べて幸せな生活を堪能しよう! そしてラナさんに甘えて出来るだけこの世界のことを教えてもらおう!
とりあえずまずはこの目の前の美味しそうなごはんから!!
「いただきます」
そう手を合わせて食べ始めると、ラナさんが不思議そうにこちらを見る。
「その挨拶はなんですか?」
「あ、私の故郷では食前にいただきます、食後にごちそうさまでしたと言うんです。 こちらではそう言った挨拶はないのですか?」
「この辺では聞いたことがありませんね。自分より身分が高い人が食べ始めてから食べるというマナーなどはありますけれど。髪と瞳の色も見たことがない美しい色ですし、この辺りの出身ではないのですよね? でしたらマナーも違うのでしょう」
たしかに世界が違うんだし、マナーも違うのは当たり前だ。
これはこの10日間でマナーも教えてもらった方が良いかもしれない。
「あの、ラナさん。私はこの辺りのことがわからないので、マナーも含めて色々と教えていただけませんか?」
「まあ! そんなふうに頼まなくても、ただ命じていただければいいのですよ」
命じることなんてできません! きっと10日後には私が命じられる側になってます!
とりあえず10日あって助かった。
この10日間でできるだけのことを覚えて、心の準備をしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます