第7話

「「「おかえりなさいませ」」」


 扉が開かれると中はホールのようになっていて、両側にはピシッと揃って頭を下げた人達。


 メイドさんと執事さん!!

 メイド服は丈が長いしフリフリしてない。 執事服も質の良さそうな生地だ。コスプレじゃなくて本物だっ!


 「あぁ。ラナ、彼女を部屋に案内してくれ。世話を頼む」


 そう言われて頭を上げた使用人達はそこでやっと私の存在に気がついたようで、ラナと呼ばれた女性は目を丸くしてパチパチと瞬き、とても驚いた顔をしている。


「まぁまぁまぁ! 坊っちゃまが女性を連れてくるなんて!」


「坊っちゃま……?」


 この大きな家のお坊ちゃんってこと? 


「坊っちゃまって呼ばないでくれ」


「あら、失礼しました。もう立派な当主様ですものね! お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「名前はないらしい」


「まあまあ! では後でヴェルメリオ様が考えて差し上げなければ!」


 はぁ。とため息をつくと、男性は階段を登ってどこかへ行ってしまった。


「さ、お部屋へご案内いたしますね!」


 そう言われてついて行った先には、とっても広くて素敵な部屋があった。


 「え、ここ……? あの、間違えていませんか??」


「あらあら、間違えてなんておりませんよ。あちらの扉が寝室です。洋服や寝巻きも少しですが寝室のクローゼットに用意してあります。こちらの扉は簡易的なお風呂で、向こうがお手洗いです」


 この部屋だけでも広いのに、別で寝室があってお風呂までついているなんて!


 嬉しいけれど、でも絶対に部屋は間違えてるよね。

 その辺で買ってきた女に使わせる部屋じゃないもの。

 まぁ明日からは奴隷のような生活が待っているかもしれないし、今日はこのまま黙っておこう。

 私のミスじゃないし、怒られない、よね……?

 

 「では、入浴のお手伝いをさせていただきますね」


 んえ!?


「1人で入れます!」


「いえいえ、そんなことはさせられませんよ」


 えぇ!? そんなこと!?

 お風呂入るだけだよっ!?


 何度か1人でいいと伝えたが結局押し切られてしまった。


 おぉ! 簡易的なお風呂って言ってたけど、私にとっては十分広いお風呂だよ!


 同じ原理なのかわからないけれど、シャワーみたいなのと浴槽がある。なんとなく使い方もわかるくらいには普段使っているものと似てる。


 頭も身体も洗ってもらってなんだか申し訳ないけれど、慣れているのかとっても気持ちよかった。


 それにラナさんは私のアザを見ても驚きと悲しみの混ざったような顔はしたが嫌悪の視線はなかった。


「ふぁー、さっぱりした!」


 着替えはラナさんがクローゼットから持ってきてくれた。

 けどこれって……、ネグリジェってやつ?


 長いワンピースのような見た目だが、ワンピースにしては生地が薄くてヒラヒラしていてなんだか慣れない。


 ネグリジェを着た時、濡れた髪をどうしようかと思っていたらラナさんがあっという間に乾かしてくれた。

 ドライヤーないよね? 私は髪の毛が長いからどうしようと思っていたら、「失礼しますね」とラナさんが触れると、あっという間に乾いていた。

 なんとこの世界、魔法があるみたいなのだ!

 私が驚いてすごいすごいと言っていると、「貴族のお屋敷に仕えている者は魔法が使える者が多いんですよ」と照れたように教えてくれた。

 それにさっきの男の人、ヴェルメリオ様と言うらしいんだけど、あの人は凄腕の魔法使いなんだそうだ。

 元々男爵家の三男だったが、魔法で功績を上げて伯爵家を授かったという。


 まぁ私は魔法を見たのもこれが初めてだし、貴族社会も知らないから凄さがイマイチよくわからないんだけどね。


「寝室広いっ! ベッド大っきい!! クローゼットいっぱい!!」


 寝室に向かうと、今すぐに飛び込みたくなるほど大きくてフカフカなベットが部屋の真ん中にあった。

 お姫様のベッドみたいだ。


「失礼しますね。さぁ、どうぞ」

 

 ラナさんに天蓋と布団を捲ってもらいフッカフカのベッドに入る。


「ほわぁぁぁ! 気持ちいい。……あれ? あそこの扉はなんですか?」


 さっき説明を受けた時には教えてもらっていない。


「あぁ、あの扉は特に何もないですよ。ご主人様の部屋へ繋がっているだけです。それではまた明日の朝に来ますね。おやすみなさいませ」


 ん? ご主人様の部屋? この家のご主人様っていうと……、え?? あのヴェルメリオ様って言う男の人!?

 

「ちょっ、待って……!!」


 急いで天幕を捲りラナさんを追いかけるが、部屋のドアを開けるともうラナさんはいなかった。 


 え、寝室が繋がってるって……、めちゃめちゃ勘違いされてるよ!! ヴェルメリオ様が私を連れてきて世話をしろって言ったから、恋人とか婚約者とか、そういうふうに思ってるってこと!?

 ヴェルメリオ様、ちゃんと説明しといてよっ!

 あ、待って。もしかしてそういうこと!? 部屋を間違えたんじゃなく、身体とかそういうこと目的で私を買ったってこと!? だからこのキラキラな部屋なの!?

 いや、ないな。あの美形ならどんな美女も選り取り見取りなはず。

 でも私のアザだらけな身体を見て買ったんだから、やっぱりそういう趣味があって私に相手をさせるために買ったのか!?


 あぁ。考えれば考えるほどわからない!


「もう寝よう!」


 今日は色々なことがありすぎてクタクタだもん。

 明日しっかり確認すればいいや。

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