第6話
私を落札した男性の後をついていくとそのまま外に出た。
あぁ、やっぱり……。
そこはどこからどう見ても、私のいた公園ではない。
暗くてよくは見えないけれど、私が知っている中ではヨーロッパの雰囲気が1番近いだろうか?
下は石畳で、建物は洋風だ。今のヨーロッパというよりも中世に近い気がする。
さっきまでいたサーカステントは裏路地の奥の開けたような場所にあり、場所から見るに、あまり大っぴらにやっていいことではなさそうだった。
細い通りをいくつか抜けると、目の前に大きな道路が現れる。
「馬車……?」
男性が道路脇に停まっていた装飾された華やかな馬車の方へ歩いて行くと、御者席から人が降りてきて馬車の扉を開けた。
男性はこちらを気にもせずにサッサと先に乗り込んでしまう。
この馬車に私も乗っていいの? 私はどうしたらいいの?
戸惑っていると御者さんが「どうぞ」と手を差し出しエスコートしてくれる。
おずおずと馬車に乗り込むと、馬車の中は対面になっており、大人4人が座れそうな広さだ。
男性は奥に座り静かに窓から外を眺めている。
私はなんだか気まずくて、対面の入り口側に座った。
御者さんは私が座ったのを確認すると扉を閉じ鍵を閉め、馬車をゆっくりと走らせ始める。
シーンとした空気がつらい。馬の蹄の音と、馬車が石畳の上を走る音だけが車内に響く。
聞きたいことは沢山あるけどこの人がどんな人かもわからないし、買われた私の立場もよくわからない。勝手に話して気分を害してしまったらどうなるかもわからないし。
シーンとした空気のまましばらく走りサーカステントのあった辺りからだいぶ離れたところで、男性が目元につけていた仮面をそっと外した。
んめっっっちゃ美形……!!!
なにこれ!? いや口元と鼻だけ見えてたときも整ってるなとは思ったけど!! 整ってるどころじゃないよ!!
マジマジと見つめすぎたのか男性がこちらをチラリと見た。
やばい、怒られる!?
「名前は?」
「名前、は……」
私の名前は、賢く知的になるようにという両親の願いがこれでもかと込められてるようで好きじゃない。
昔はその由来を聞いて、素敵な名前をつけてもらった! と喜んでいたが、両親の期待に応えられなくなるにつれて、その名前が重石になっていった。
「ないのか」
ここ違う世界みたいだし好きに言っちゃっていいんじゃないか? でもなんで名前にしよう、と悩んでいるうちに男性は私が名前がなくて答えられないのだと思ったのか、また外を眺め始めた。
しばらく走り続けると段々と街並みが変わってきた。
家一軒一軒の大きさが大きくなり、庭がついていたり、見た目の美しい家が増えてきたのだ。
そこからさらに走り続けると、門があり、門番が付き、庭が広くなる。家というより屋敷?
もうこの辺は家とか庭ってレベルじゃない気がする。
もう小さなお城じゃんという家ばかりになってきたころ、馬車の速度が落ち、一軒の家の門の前に停まった。
御者さんが門番さんと何やらお話をすると門が開き、馬車のまま中へと入っていく。
まさかこのお城みたいなのがこの人の家だとかいうんじゃないでしょうね。
やがて建物の前に着き御者さんの指示で馬車から降りると、続いて男性も降りてくる。
そして建物の扉が開かれた。
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