第4話
あまりのことに呆然としていると、視界の隅で何やら動いているのに気がつく。
さっき私をここまで連れて来た男が、ステージの隅で手をパタパタと身体の前で動かしている。
? なんだ?
男は手振りだけじゃ伝わらないと分かったのか、口をパクパクさせて手振りと合わせて何かを伝えようとしている。
ヌ? ヌ、ゲ?
ぬげって……、脱げ!!?
え!? 私このローブ1枚しか着てないんだけど! それを脱げって!?
いやいやいや! こんなに大勢が見てるんですよ!?
見ている人の中にはニタニタと笑いながらいやらしい目でこちらを見ている男もいる。
嫌っ! もしも! もしもここが地球じゃないどこかで私がこれから売られるとしても、あいつらだけには買われたくないっ!
あいつらに買われたくないのなら、脱いだ方がいいのだ。
私の場合は。
だって私の身体は……。
私は覚悟を決めてローブの襟に手を掛け、前を開いて手を離した。
ファサりとローブが足元に落ちる。
身体1つのこの状況が心もとなくて、周りの反応が怖くて、顔を上げられない。
しかし、負けるものか、俯いてなるものかと顔を上げると、会場全体がザワついているのがわかった。
「なんだこのアザは」
「気持ち悪いわ」
「こんなのが商品なのか?」
「この商品を担当したのは誰だ!? どうなっている!」
ここ最近、受験のせいで母の教育はより一層酷くなっていたから。
先ほどまで私をいやらしい目で見ていた男たちも、今はこちらに嫌悪の視線を向けている。
よかった。これであいつらに買われることはなさそうだ。
そう思ったのも束の間、先ほどまで私をいやらしい目で見ていた人達とは別で、私にそういう視線を向けている人達がいるのに気がついた。
「最悪だ……」
この私の身体をみてそういう視線を向けているということは、つまりそういうことなのだろう。
こんな奴らに変われたらどんな目に遭うかわからない。
「えー、それでは気を取り直して始めさせていただきます! 500万リルからスタートです!」
「600!」
「700!」
「800だ!」
私のアザだらけの身体を見てから目の色が変わった人たちがドンドンと入札をしていく。
「850!」
「900!!」
「950! いや、1000だ!」
どんどんつり上がる値段。
この金額がどれくらいの価値なのかは知らないが、こんなアザと傷だらけの身体にそんなにポンポンとお金を出すのが信じられない。
アホじゃないか??
入札をしている人達は誰も彼も気持ち悪い笑みを浮かべている。
この中の1人に私は買われるの……?
「1400!」
でっぷりとした腹を揺らして油ぎったおじさんが声を上げる。
「1500!」
ぱっと見は好青年そうな装いの男性が口元に下卑た笑みを浮かべながら値を上げる。
「1900!」
「2000だっ!!」
首輪をつけた女性達を両脇に侍らせた男性が声を上げた。女性達は美しい装いをしているが、全てを諦め切ったような表情をしている。
私もここに仲間入りするってわけ!?
「さて、他に入札される方はいませんでしょうか!?」
「結構いったな」
「身体はアレだが、あの黒い髪と瞳の色はかなり珍しいからな」
「髪と瞳だけじゃない。下の毛も黒いぞ! ここまで粘った甲斐があったな! ハッハッハッ」
気持ち悪い!! こんな男に買われるなんて嫌っ!!!
「それでは2000万リルで、「3000万」
終わった……。
購入者が決まりかけたその時、そう冷たい声が会場に響いた。
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