第3話


「はぁ。これからどうなるんだろう」


 さっき男達に抵抗した時にバッグを床に落としてしまったのでスマホがなくて時間がわからない。

 檻に入れられてから結構な時間が経っている気がするが、その間ここには誰も来なかった。 


 はぁ。誰か来たら状況を説明してもらおうと思っていたのに。


 さっきまでは知らない人に無理矢理檻に入れられるという意味のわからない状況に涙が止まらなかったが、もうすっかり泣き止んだ。


 だって帰りたいとか家族に会えなくなったらどうしようとか思わないんだもの。


 ふと、私何でこんなに泣いてるんだろ。って我に返ってからは結構落ち着いてる。


 親はアレだし、祖父母は亡くなってるし、友達も恋人も兄弟もいないし。

 むしろ受験からも母の躾からも逃れられる。

 心配なのは自分の身だけ。


 実験に使われたり殺されたりするのは嫌だなぁ。痛いのは今までの生活でもう十分味わった。


 地面に体育座りをしながらこの状況について考えていると、先ほどの男達が戻ってくる。


「あ、あの…「最初のはどれだ!?」


「こっちにあったぞ!」


 これからどうなるのか聞きたかったのだけれど、1つの檻を選んで台車に乗せるとすぐに出ていってしまった。


 檻が運ばれていってすぐ、奥の方から賑やかな声や音が聞こえ始める。


 ……やっぱりサーカス?


 それからまた男達が入ってきては檻を運び出し、入ってきては檻を運び出しを繰り返す。


 檻の数がだいぶ少なくなった頃、私の入っている檻の布が捲られ、かけられていた鍵が外された。


「出ろ。お前は言葉もわかるし自分の足で歩けるだろ? 逃げようなんて思うなよ。周りを見ればわかると思うが、女の力じゃどうにもならない」


 たしかに男達に囲まれていたら逃げようにも逃げられない。

 それに、この人たち腰にナイフのような物を下げている気がする。銃刀法違反じゃないの?


 何かされても嫌なので男たちの言うことを大人しく聞き、両腕を掴まれながら移動していく。


「脱げ。脱いでこれを羽織れ」


 脱ぐ!? 服を!?


 代わりにと手渡されたのは美しい模様の入った、足元まである長いローブだった。


「脱ぐってどこまでですか?」


「全部だ」


 全部!? 下着まで全部!?

流石にそれは……と躊躇していると、モタモタしている私に苛立ったのか男が「早くしろっ!」と怒鳴り棒を振り上げる。


「ひッ!!」


 私は急いでローブを羽織り、身体が見えないようにローブの中で制服と下着を脱いだ。


 長年母親から暴力で支配されてきたからか、嫌だと思っても力には逆らえないのだ。


 隙間から身体が見えないようにローブの前を押さえながら男たちに言われるまま着いていくと、急に目の前が明るくなる。


「眩しいっ!」


 電気がこちらへ向いているのか、目を慣らさなければいけないほど強い光だ。

 目を慣らしながら少しずつ開けると、目の前には異様な景色が広がっていた。


「なに、これ……」


 どうやら私はステージのようなところに立っているらしい。

 周りには人、人、人、人、人。それも全員がさまざまな仮面で顔を隠しこちらを見下ろしている。


「さて、次の商品はこちらっ! 黒い髪に黒い瞳の少女です! いやー、珍しい! ただでさえ珍しい黒。それが髪も瞳もです! 私も長年この仕事をしておりますが扱うのは初めてです! 長い黒髪は艶やかで、大きくもスッキリとした形の瞳は宝石のよう。異国情緒漂う顔立ちをしておりますが非常に整っております!」


 しょうひん……?? 商品って、私が? 人間を商品にするなんてこと、現代の日本であり得るの!? 

 まさか、日本じゃない……?

いやいや、そんなはずない! だってさっきまでいつもの公園にいたんだもの!!

 でもこのステージで喋ってる人、黒髪に黒目が珍しいって言ってた。 

 それに……。


 顔を上げて、椅子に座って寛ぎながらこちらを見下ろす人たちをぐるっと見回す。


 やっぱり。皆顔は仮面で隠しているが、髪色はみえる。

 赤、オレンジ、水色、黄色、紫、緑。

 濃紺や藍色、グレーや濃い紫などの黒に近い人はいるが、普段見慣れている真っ黒の黒髪が1人もいない。


 カツラ? いや、女の人ならまだしも、短髪の男の人まで派手な色をしている。カツラじゃない。


 じゃあ染めた……? いや、だけど髪が伸びて来て根元に黒が見える人もいない。

 全員が染めたてだなんてことあり得ないだろうし。 


 じゃあ本当に? 本当に日本じゃないの? いや、髪の色を見るに、この髪色が本物なら地球でもない。


 そうだ、私が最初に見た妖精。あの時は私の目と頭を疑ったが、あの妖精は本物だったんだ。


「どうしよう……。私、とんでもないところに来ちゃった……」

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