Chapter 6 ~Rush and Press~
「うーん、荷物も乗るしこれくらいの車ほしいよねぇ」
「ジャンク屋に転がってるヤツいい加減買うか、っと入れねえか」
施錠された駐車場前にスイパラで借りたハンヴィーを止めてバン、ダイナ、ギンは建物に歩き出す。
「カギかけとけよ、最近は少ないけどババアにマヌケ面さらすのは御免だ」
「大丈夫ロック済み、しっかしちょっと怖い雰囲気だよね」
夕方に拾い上げた少女を引き渡した港湾局の建物はすでに非常灯と警備の小屋を残して真っ暗だ、船着き場にも近く、波の音が響くだけである。
「しかし港湾局に仮眠室なんかあるんだね」
「二階の一番奥、窓は防爆仕様だったのでロックかけてそのままでーす」
「ちょい待ち」
バンは元気に先に立って歩き出すギンを手で制する。
「警備のオッサン達いないぞ」
たしかに警備のコンクリ小屋は遠目にはだれもいない、バンは着ているパーカーの下、背中に吊ったホルスターからVz61スコーピオンを取り出しアルミストックを展開する。
「みんなご休憩?」
「ギンちゃん、言い方がよくないよ」
ダイナもギンをたしなめつつ、ジャケットの前を開け、腰のホルスターからグロック19を取り出し装填を確認する。
「おギン、武装は?」
「ありまーす」
ギンは昼間会った時のまま、スリムなスーツを着ているが、その手にはどこから取り出したのか魔法のようにミニウージーが出現していた。
「いくぞ」
バンを先頭にして警備小屋まで3m程の感覚で進んでいく、小屋の外壁にとりつき中を注意深く確認すると初老の警備員二人が倒れていた。
「ダイナ」
「うん」
バンとギンが周囲を警戒する中ダイナが倒れている警備員を確認する、息はあるようだが昏倒させられていた。
「銃は取られてる」
「了解、ババアに連絡、いろんなとこに通報してもらえ」
「にーちゃん、2階の一番右」
ギンが小声で注意を促す、見上げれば2階の窓にチラチラとライトが光るのが見えた。
「ダイナ、後詰は」
「レンさんに伝えたけど早くて20分だね」
「間に合わんな、行くぞ」
3人はまた一列で港湾局の建物に接近していく、よく見れば入口横のガラスが割られているのが見えた。
「野蛮すぎるだろ、警備小屋の鍵が目に入らなかったのか?」
バンは警備小屋で回収した鍵で正面玄関から入る、さすがに警備システムは切られているのか警報は鳴らない。
ギンが二階への階段を警戒する中バンとダイナは一通り一階を確認する、大半の扉は施錠されており三人はゆっくりと階段に足を踏み入れた。
流石に2階の階段上には見張りが居たが、階段すぐ横のベンチで一服中だった。
手持ちのアサルトライフルはベンチの横に立てかけてある、明らかに煙草ではない臭いが広がる中ダイナが気配を消し、背後からするりとパラコードで体重をかけて締め落とした。
「すげえ、上から下までザ・チンピラだな」
浅黒い肌にぼろぼろの歯、雑な髪型、派手なアロハシャツ、ハーフパンツにサンダル、極めつけにサビの浮きかけているAK47、ツボに入ったのかバンはひーひー小声で笑っている。
「バン笑いすぎ」
ダイナは締め落としたチンピラを結束バンドで拘束、AKはマガジンを抜き、チャンバーから弾を出し回収しておく。
「にーちゃ、残りはふたり」
階段を上がった先を覗いていたギンが報告する、非常灯でぼんやりと光る廊下には二人分の人影がうごめいている、時折廊下の窓から中を覗き、いねーじゃん等と騒いでいる。
「ギン、部屋は防弾だったか?」
「んーん、外側からは大丈夫だとおもうけど、こっちからは抜けちゃうかも」
「んじゃいつもの手だ」
◇ ◇ ◇
「きゃっ!」
見張りを残してきた階段から女の短い悲鳴が聞こえ、二人のこれまたチンピラ風の男達が慌てて階段へ走り出す。
いたのか!女か!と騒ぎながら慌てて階段に戻ると、金髪の少女が点灯したフラッシュライトを手に踊り場であおむけに倒れており、見張りの男はその隣でうつ伏せ倒れていた。
どうした!何があった!と男達が踊り場に降りた瞬間、階段上のベンチ下に隠れていたバンとダイナが飛び掛かる、軽い彼女たちとは言え重力も加わり一撃で男達は昏倒した。
「これたまには私もやりたいです!」
眩しいフラッシュライトを消し、抗議の声を上げるギンに二人は男達を先ほどのように結束バンドで拘束しながらダメと答える。
「おギンはちょっと体重軽すぎるからな」
「成長期なのでしょうがないです!」
「成長したらやろうねー」
新たな男達の銃も無力化し、三人は再度一列で警戒しつつ壁際を進み、施錠を確認しながら2階一番奥の部屋まで到達する。
仮眠室、使用は管理者の許可を得ること、と大きく書かれた扉の隣、カードキーの認証ポイントはロック状態を示すLEDが赤く光る。
バンは片手を示し3本の指を掲げる、ダイナとギンがそれを見て頷いたのを確認しカウントダウン、3,2,1,残りの指で持っていたカードキーを叩きつけると電子音と共に扉が開く、同時にフラッシュライトを点灯、突入。
「!」
3人の視界が真っ白に染まる、シーツが天井か床まで吊るされており、フラッシュライトの光を強く反射したのだ、さすがに虚を突かれた3人だが反射的に判断し、引きちぎるようにシーツを引きずり下ろす。
「お前っ!」
そのスキを突き、床にクラウチングスタートのように伏せていた少女が3人の間をすり抜け駆けだす、もちろんすれ違いざまに弛んだシーツを引っ張り3人をきりきり舞いさせるのも忘れない。
「止まれ!話たいだけだっつうの!」
転倒しながらも手を伸ばすバンを一瞥し、それでも飛び込むように階段方向へ消える少女。
「バン、非常口!」
3人は非常口から転がるように外へ、さび付いた階段を身軽なバンが2人に先行して数段駆け下り中央入口へ、素足のせいでチンピラ共が割ったガラスに注意しながら移動した少女が走り出てくる。
「とまれってんの!」
バンが飛びつき建物横の植え込みへ押し倒しようやく少女は止まった。
「これ以上手間かけさせるとブチ込むぞ!」
息を切らせたバンが怒鳴りつけながら乱暴に身体検査をする、Tシャツにジャージの少女は何も持ってはいなかった。
「わかったわかった痛い痛いもう少し優しくしてくれないと気持ちよくない!」
「何いってんだてめえ!」
微妙に暴れる少女に少々引きながら逃げられないように植え込みに体ごと押し付ける。
「あっちょっといい匂いがする、素敵な香水だね、柔らかいしも少し強くてもいいよ!」
「やだ!なんかこいつ昼間と違う!気持ち悪い!」
口調も態度も昼間と全く違う少女にバンは助けを呼ぶようにダイナとギンを見る。
「いや、そういうのはちょっと」
「へんたいさんだったかー」
きっぱり断るダイナと銃まで構えて拒否するギン、無理やり立たされた少女はくねくねしながらバンにすり寄る。
「乱暴にされるのも以外と良かったからありがとね!」
「なんなんだおめーは!」
「逃げられないなら楽しもうと思って!」
バンは遠くに聞こえだした商工会のパトカーサイレンに、向こうに引き渡した方がいいんじゃないかと半ば本気で考えてしまう。
「とりあえずレンさんとこ連れて行こう」
お話になるか尋問になるかは君次第だよとダイナが釘をさすと、やや少女は静かになった。
「ったく……ギンはどうする?来るか?」
「わたしはしょーこーかいの人に説明して、そのままおつかれさましますー」
おやすみなさいです、と言い残し警備室へ向かう、警備小屋の回線から先に事情を説明するのだろう。
「んじゃこっちも引き上げるか、ダイナ、載せたらこいつ足も縛っちゃえ」
「できれば私ってばヒモとか手錠の方が雰囲気が出ていいかなーって、あっ、嘘嘘ぐぇーきもちいい」
戯言にイラつき首を絞めるバンにため息をつくダイナ、そして“保護”された少女は結局車に乗っていたガムテープで口を塞がれ、足も繋がれモゴモゴ言うオブジェとなって深夜の未舗装路を運ばれて行くのだった。
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