Chapter 4 ~visitor~
船へ乗るとき、船から陸へ上がる時、慣れていない者には危険となる。
「えーっと……」
日も傾き、若潮とはいえ上げ潮だ、動きを止めた船でも揺れは発生する。
それは整えられた港でも変わることはない。
「気をつけてね、揺れが上がりきった時に陸に戻るんだよ」
見かねてダイナがアドバイスをすると黒髪にショートカット、小柄でバンやダイナと同じ色のジャージを身に着けた少女はわかりました、とタイミングを見計らい桟橋へ足をかけ、体を持ち上げた。
「船が初めてかどうかはきいてなかったな、スマン」
船内の荷物を纏めていたバンが軽く謝る、まとめられた荷物はダイナがぽいぽい岸壁に移していく。
「体の調子はどう? 気持ち悪かったり痛かったりしない?」
「まあ何にしろ検査と聞き取りが待ってるけどな」
バンとダイナは危なげなく陸へ上がると桟橋の先にある田舎の駅舎じみたコンクリート製の港湾局と側面へ大描きされた建物へ少女を連れ歩き出す。
「第三島は船の実習とかなかったのか?」
「ありましたけどこの前の攻撃で軒並み壊れちゃって……」
尋ねるバンに申し訳なさそうな声色で返す少女。
「1月前のやつか、そのせいで第3島はまるごと撤退……、んであんたはいきなり謎の襲撃で生徒会長ともども拉致被害、トラブル続きで大変だな」
「慣れてますから」
言葉少なく答える少女、冷たい感じもするが、それ以上に疲労の後が伺えた。
「慣れてても顔見知りが目の前で、ってのはキツいよね」
「いえ、会長さんほはほぼ面識ないですし、そもそも転校してきたばかりで……」
言い淀む少女にダイナは慌ててごめんねごめんねと謝る、デリカシーの無いやつとバンはダイナの尻を蹴飛ばした。
「痛たた……、ほんとごめんね、とりあえずうちの担当が来るから、悪いようにはならないはずだよ」
「今日はゆっくり休めるはずだ、知らんベッドで寝ることになるが安心して休め、聞き取りやら何やらは明日からにしてくれるだろうよ」
「色々、ありがとうございます」
休めるという単語に少し気が緩んだのか少女は疲れた笑みを見せる。
「お待ちなすってー!」
建物に到着し、入り口のドアを開けると元気な声が聞こえてきた。
「担当はおギンか……」
「うーん、大丈夫かな」
聞こえた声に先ほどと打って変わって一気に不安顔になるバンとダイナ、状況がわからず戸惑う少女。
「ギン、そういう時はお待ちしてました、だ」
「そっか!おまちしてました!担当者!兎内(うない)ギンです!」
タイル張りの病院受付のようなエントランスの真ん中、よくわからないポーズを決めるグレーのスーツに水色のネクタイ、金髪でツインテールが奇跡的なまでにミスマッチな小柄の少女。
「そして担当されるあなたはどなたですか?」
「え、あ、朝凪 夢です」
あさなぎゆめしゃんですねー、正解ですー、とギンはよくわからないことを言いながら手元の端末に入力していく。
「愛のカード、ありますかー?」
「あ、愛のカード?」
「IDカードねー」
先に回収させてもらったよとダイナがギンに樹脂の個人情報IDカードを手渡す。
「わー、写真がぐちゃぐちゃ」
海水でにじんだのか個人情報カードの証明写真は滲んで人相が不明瞭だ。
「こりゃ作り直しかもな、最近はIDカードの質も落ちたか?」
「うーん?写真の定着がおかしかったのかも、ともかくお預かりですー」
首をかしげながらギンはスーツの内ポケットからプラケースを出し格納した。
「それじゃユメさんはこちらにどーぞー、ねーちゃんたちはさようならー」
ギンが建物の奥へ移動を促し、バンとダイナには手を振る。
「妹さんなんですか?」
「「いや、そういう感じってだけ」」
バンとダイナはハモって二人して否定のジェスチャーをする。
「んじゃアタシらは用事があるから、ギンは変な奴だけど信用して大丈夫だから」
「濡れた服やら身の回りのものは洗濯して後日返せるはず、ほんと変かもしれないけど大丈夫だからね」
「そういわれると余計に不安なんですけど」
先行してこっちですよーと手を振るギンを見て少女は困った顔で呟く。
「ちょっと言語センスが独特だけど悪意は絶対にねーから安心しな、明日解放されたら飯食わせてやるから」
「はいこれ私たちの番号ね、終わったら電話ちょうだい」
二人はメモに電話番号を書き入れ手渡す、少女はわかりました、また明日と頭を下げギンに誘導され姿を消した。
「さて、あとは報告書とお前の課題か」
「あー、課題のことすっかり忘れてたよ」
全てが嫌になってきたー、と床に座り込むダイナ。
「だらしねーからとっとと行くぞ、シャワーでも浴びてスキパラ行くぞ」
「もうすべてわすれてやすみたい」
「言葉が全部平仮名になってんぞ」
沈む夕日を背にバンは引きずるようにダイナを連れ港湾局の建物を後にした。
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