Chapter 3 ~gone down~
エメラルドグリーンの海に一筋の白線が伸びているように見えるだろう、バンとダイナは高速艇で眼前の黒煙を引きふらふら飛ぶヘリを追尾していた。
「速度差はどうしようもないけど黒煙で丸わかりだな」
バンはエンジンのトリムを器用に調整しながら随時管制本部へ連絡を入れつつ、インコムでダイナへ話しかける。
「うん、だんだん濃くなるから事故かもね、呼びかけに応答はないんでしょ?」
凪いだ海とはいえ高速走行の衝撃に耐えながらデッキの銃座でダイナはダシュカ大口径機関銃を油断なくヘリへ向け続ける。
「無い、無いけどふらふらしてるし高度も安定しない、事故か、素人が飛ばしてるかのどっちかだ」
「追う分には楽だよね、っと、高度がさらに落ちるよ」
ダイナの警告に双眼鏡を覗くバン、覗いたレンズの先には「中3-1」と書かれたMi-8ヘリコプターが黒煙を吐きつつ高度を落とし、ふらふら飛ぶのが見える。
「本部、もう落ちるぞ」
『うえぇ!? と、とりあえず、共同軍からは巡視艇が出ます、うちからは救難機が上がるから!』
流石に無線の向こうから慌てた声が返ってくる、リアルタイムで航空機の墜落実況をされたい奴など居ない。
「バン!落下物!」
ダイナの声に脊髄反射で取り舵(左)を僅かに切る、見れば軍用コンテナと思われるケースが落下、着水するのが見えた。
「クソ、いよいよだな」
距離はまだあるので十分余裕をもって回避できるが、重量軽減を狙っての投棄か、固定が甘くてふっとんだのか判別がつかないほどヘリは傾いて飛んでいた。
「本部!カヤ!聞いてっか!黒煙増大、高度低下、落下物が……」
無線の向こうで管制業務を行う知人へ状況を送るが、眼前の状況は流石のバンも息を飲んだ。
『…バン?』
「落下物さらに増加、ヒトも落ちた」
◇ ◇ ◇
『ヒトも落ちた』
エアコンが聞いているとは言い難い管制室に冷たい空気が漂うが、それも一瞬で勤務中の学生達は業務を続行する。
「了解、引き続き変化があれば報告お願いします」
とはいえ流石に言葉と表情が硬くなる、カヤとバンに呼ばれた池袋 加夜子(いけぶくろ かやこ)は記録を取りながら、なんで今日当番なのかと腹痛で休んだクラスメイトを恨んだ。
「共同軍の巡視艇、フローレンス・フィンチからデータリンクの要請来てます」
「救難隊、準備完了」
港湾を望む高台にコンテナを組み立てて改造した臨時管制室は情報が飛び交う、臨時とは名ばかりでもうこのまま何年も運用されていた。
「レーダーから目標消失!」
『落ちたぞ!同時に小爆発!座標送った!』
「了解、引き続き現場へ向かってください」
海上、対空レーダーからの消失連絡と同時に4号艇から連絡が入る、そのまま共同軍と救難隊に座標を流し、急ぐように伝えたが、皆乗員の生存に希望は持てない。
「いきなり現れていきなり落ちるヤツの顔が見てみたい」
眼下に広がる港の隅にある格納庫から中二貫校に配備された数少ない航空機、黄色に緑線でマーキングされたMi-14Sが離陸していくのを眺めつつカヤは共同軍とのデータリンクを行う。
他の地域は知らないが、ここ中部圏では学生連合、港湾局、商工会、共同軍の関係は悪くない、こうしてリアルタイムデータリンクが可能で海難事故や突発的なクソロボットの襲撃でも連携をとって動くことが可能だ。
「墜落地点周囲には落下物あり、注意されたしっと」
カヤが入力した文字ベースのデータが配信されていく、小さい情報でも記載しておけばなにかと感謝されることが多い。
『こちら4号艇、どうやら落ちた奴がまだ生きてるらしい、ホイッスルが聞こえた』
管制室がおぉ、と盛り上がる、グッドニュースだ。
『了解、救助隊が上がりました、10分で到着予定です、4号艇は救助優先でお願いします』
すこし気が軽くなったカヤだったが、次の報告で今日一番顔が曇ることになる。
『救助完了、外傷なし、ただし手を拘束されてる』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます