第2話 クローバー

一ノ瀬は今日も会社を定時に上がった。

そして帰りながら昨日のことを思い出していた。


「俺はなんてことをしたんだ」


昨日のことが頭から離れなかった。

見ず知らずの少女に話しかけ、その少女に温かい飲み物まで買ってあげたのだ。普段の一ノ瀬を知るものからしたら想像もできないことだろう。


「昨日のことは夢に違いない。そもそも少女なんていなかった。俺は昨日寄り道せずに帰宅した。よし!そういうことにしよう。」


そんな独り言を呟いているといつのまにか目の前には例の公園があった。

そしてよく見るとあの少女がいたのだ。


「嘘だろ。」


一ノ瀬は考えた。

このままそっと歩けば気づかれないのではないか。しかしもし気づかれたらまた面倒くさいことになる。それなら別ルートから遠回りをしてでも帰ったほうがいいか。


「あの、、」


突然目の前から聞こえた声に驚き一ノ瀬は前を向いた。


例の少女だった。


一ノ瀬と目が合うとまた少女は喋り出した。


「昨日はありがとうございました。

ココア、とても美味しかったです。」


そう言うと少女はペコリと頭を下げた。

そして続けて話し始めた。


「お礼をしたいんだけど何もあげられるものがなくて、、、何かして欲しいこととかありますか?」


一ノ瀬は思った。

昨日の行動がやはり面倒くさいことになってしまったと。


「お礼なんていらない。昨日のことは俺の気まぐれでしたことだ。それに昨日も言ったがこんな時間にそんな薄着でいると死ぬぞ。早く帰れ。」


「でも、、、」


少女はうつむいたまま動こうとしなかった。


「忠告はしたからな。じゃあな。」


そんな少女を横目に一ノ瀬はそのまま家へと帰ったのだった。


次の日公園に少女の姿はなかった。

次の日もその次の日も。


最後に会った日から一週間ほど経ったある日のこと。

一ノ瀬が公園を通るとそこには少女がいた。

少女は一ノ瀬を見つけた途端に近づいてきた。


「はい。お返しこれしか思いつかなかったの」


少女の手には一本の

四葉のクローバーがあった。

正直一ノ瀬にとって四葉のクローバーだろうがその辺に生えてる雑草と同じだった。

仕方なくクローバーを受け取ると少女は笑顔になりとても嬉しそうだった。


「本当はね、たーっくさん四葉のクローバーを集めてお兄さんを喜ばせたかったんだ。でもね、わたしあんまり目が良くないから」


そう言う少女に対して一ノ瀬の中で不思議な感情が芽生えた。


「ありがとう」


咄嗟に出た言葉だった。

雑草なんかもらっても嬉しくないはずなのに

目の前で喜んでいる少女に突然何か一言感謝を伝えたくなったのだ。

少女はとても驚いた顔をして目をぱちくりさせている。

少女に話しかける隙を与える間も無く一ノ瀬は話し始めた。。


「まぁ、正直こんなものもらっても嬉しくなんかないがくれるって言うならもらっとくよ。」


そう言うと真っ赤な顔をした一ノ瀬は早足で家へと帰っていったのだった。


ちなみに一ノ瀬がこの時もらった四葉のクローバーを捨てることは死ぬまでなかったとか。

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君がくれたもの たにお @yuki1225

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