君がくれたもの

たにお

第1話 ありがとう。

あるところに何もかもが完璧な男がいました。しかし、男には一つだけ欠点がありました。

それは周りに興味がないこと。常に自分優先で生きてきたためたとえ困ってる人がいても知らんぷり。仕事はできるのに周りに人は集まらず、見た目はいいのに彼女一人できたことがありません。しかし、彼自身そんなことはどうだっていいのです。自分が良ければそれでいい。そういう男なのです。

さて、これから始まるのはそんな彼、一ノ瀬京が一人の女の子と出会い、振り回され、成長していくお話です。




「お疲れ様でした。」

一ノ瀬京は毎日17:00の定時に必ずあがる。

たとえどんなに忙しくてもだ。

それなのに周りの人達は何も文句を言わない。

なぜなら、彼は必ず振られた仕事を完璧にこなすからだ。

いつも通り定時に上がった一ノ瀬京は 

いつもと同じ電車に乗り

いつもと同じ最短ルートで帰っていた。

近所のコンビニで夜ご飯を買い、お腹を空かせながら家の前の公園を通り抜けようとした時だった。

公園の中に人影が見えたのだ。

その公園はもう古く普段滅多に人を見ない。

それに今の季節は冬。

こんな寒い季節にひと気のない公園に一人でいるやつなんて頭がおかしいやつに違いない。

そう思いながら一ノ瀬は公園を通り抜けていた。

「ん?」

近づいた時に気づいた。

その人影はまだ小さい女の子だったのだ。

「えっ」

驚いた反動で思わず声が出てしまった。

うつむいていた少女が一ノ瀬を見た。

一ノ瀬は思わずやってしまったと思いながら

話しかけられた時の切り抜け方を考えていた。

「…」

少女は何も言わなかった。

ただこちらをじっと見ているだけだった。

「えーと、なにか?」

我慢できなくなり一ノ瀬から話し始めた。

「…」

少女は黙ったままだった。

よく見ると少女が着ている服はボロボロだった。

それに手や耳に霜焼けができていて長い時間

ここにいるのだと一ノ瀬は気づいた。


「こんなところにいると死ぬぞ。

早く家に帰ったほうがいいんじゃないか?」


「…うん」


さすがの一ノ瀬も自分から話しかけておいてこのままさよならするのもどうかと思い、最後に近くの自動販売機でココアを買って渡した。


「まぁ、なんだ。何があったか知らないがこれやるから元気出せ。」


ココアを渡された少女は不思議そうに一ノ瀬を見ていたが次第にその頬は緩み満面の笑みに変わっていった。


「ありがとう」


そう言って少女はその場から去っていった。


一ノ瀬は少し驚いていた。

人から感謝の言葉を言われるのなんていつぶりだろうか。


「たまにはいいこともしてみるもんだな」


ポロリと口からこぼれ出たセリフに自分で驚き誰かに聞かれてないかと焦りながら一ノ瀬も家へと帰るのだった。


これが一ノ瀬と少女の最初の出会いであった。

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