第60話 オフコラボ当日

 迎えた、緑が丘ミドリちゃんとのオフコラボの日。

 俺は、久々の来客に、ワクワクを募らせ、胸躍っていた。

 自分の部屋に来るでもないのに、無駄に部屋を綺麗に掃除してしまうぐらいには浮かれている。


「緑が丘ミドリちゃんが家に来るのかぁ……一体どんな人なんだろう」


 緑が丘ミドリちゃんと言えば、ドスケベ系でおっとりとしたセクシーボイスが売りのASMRに特化した声優さんとして名を馳せている。

 俺の脳内では、おっぱいの谷間を存分に強調するような露出度高めの服装で、髪の毛を耳に掻きあげながら、妖艶な瞳でこちらを見つめて来る姿を妄想してしまう。


「うおぉぉぉぉー!! 考えただけでもテンション上がってくるぜぇぇぇぇ!!!」


 俺が雄たけびを上げていると、部屋の扉が無造作に開かれた。


「お兄ちゃんうるさい! 今機材の設定やってるんだから静かにしてて!」


 現れたのは、妹の紫音だった。

 いらだった様子で、眉間にしわを寄せながら俺を睨みつけてきている。


「おう紫音か! まだミドリちゃんは来ないのか⁉」


 そんなのお構いなしに、俺が尋ねると、紫音は若干引いたような目でこちらを見つめて来る。


「はぁ……これだからお兄ちゃんは……」


 呆れた様子でため息を吐いてから、紫音はズビシっとこちらを指差した。


「言っとくけど、大切なお客さんなんだから、変な真似したら許さないからね!」

「分かってるって。紫音の大切なビジネスパートナーだもんな」


 流石の俺でも、紫音の面目を潰すような真似はしない。

 緑が丘ミドリちゃんが家にやってきたら、兄としての対応を見せるつもりである。


「……お兄ちゃん、余計なこと企んでるでしょ?」

「そんなことないって。俺はただ、紫音がいつもお世話になってますってご挨拶をだな」

「それが余計なことだって言ってるの! はぁ……やっぱりお兄ちゃん、心配だから外出かけててよ」

「酷い言われようだな……」

「だって……学校の人ならまだしも、年上の人にブラコンって思われるの、恥ずかしいじゃん」


 そう言って、頬を染めながらぶつくさという妹。

 関係が修復されたとはいえ、彼女は立派な思春期真っ盛りのお年頃。

 紫音なりに俺との距離感を計りたいときもあるのだろう。


 ピンポーン。


 そんな兄妹での話し合いをしていると、家のインターフォンが鳴り響く。


「あぁもう! こんなことしてたら来ちゃったじゃん! お兄ちゃん、粗相のない様にリビングに案内して! 私は機材の用意してから行くから」

「おう、任せとけ」

「心配なんだよなぁ」


 紫音がぶつくさとつぶやきながら、自身の部屋へと戻っていく。


 ピンポーン。


「はいはーい」


 俺は急いで階段を下りていき、玄関へと駆け足で向かう。

 一体、どんな人が現れるのだろうと、期待しながら、俺は玄関の扉を開けた。


「すみません、お待たせしま……し……た……」


 俺がうきうきで扉を開けて声を掛けた途端、言葉尻が詰まってしまった。

 無理もない。

 なぜなら門扉の前に立っていたのは、予想外の人物だったのだから。




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