第56話 リアルご奉仕

 自分の部屋で待っていて欲しいと言われ、俺は一旦自室へと戻り、ベッドの上に座って待っていた。

 これから、推しの配信者夏川ゆらであり、実妹である紫音に耳かきをしてもらうと考えただけで、凄い緊張してきてしまう。


 すると、コンコンと扉がノックされた。


「どうぞ」


 声を掛けると、ガチャリと扉が開き、色々と何やら道具を手に抱えた状態で、紫音が俺の部屋へ入ってきた。


「お邪魔します。ごめんね待たせちゃって」

「いや、それは良いんだけど……何もってんだ?」

「何って、耳かきの道具だけど?」

「そ、そんな本格的にやらなくても……」

「いいの。これはお兄ちゃんへの今までの感謝の気持ちも込めてるんだから。あっ、ベッド汚したくないから、床にマット敷くね」


 俺の許可を得る前に、紫音は蛍光色のヨガマットをコロコロっと床にすっと敷いてしまう。

 敷いたヨガマットの上に紫音が正座すると、トントンと自身の太ももを叩いた。


「こっち来てお兄ちゃん。私が膝枕してあげる」

「ひ、膝枕⁉」


 俺が驚きの声を上げると、紫音はきょとんと首を傾げた。


「だって、ASMRの時だっていつも膝枕してあげてるでしょ?」

「そりゃそうだけど……なんかリアルでされると気恥ずかしいというか、照れるな」

「何言ってるのもう……わっ、私だって恥ずかしいんだから早くしてよね」


 そう言う紫音の顔は真っ赤に染まっていた。


「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて」


 俺はベッドから立ち上がり、紫音と向かい合う形で正座する。


「さっ、きて、お兄ちゃん♪」

「お、おう……」


 意を決して、俺は身体を倒して横になり、そのままポフっと紫音のやわらかな太ももの上に頭を着地させた。


「どうかな? 私の膝枕、気持ちいい?」

「えっと……すごくいいです」

「ふふっ……良かった」


 紫音はほっと安堵の息を吐いたかと思うと、何やらせっせか耳かきの準備を始めていく。

 そして準備を終えると、頭を近づけてきて、そっと俺の耳元で囁いてくる。


「それじゃあ今から、夏川ゆら&紫音による、お兄ちゃんの為だけの耳かきマッサージ。始めていくね♪」


 紫音の囁き声はまさに夏川ゆらそのもの。

 囁き声を聞いて、改めて夏川ゆらが、本当に紫音だったんだということを実感されられる。

 それと同時に、俺はめちゃくちゃドキドキさせられていた。

 胸の鼓動がドクドクと早鐘を打ち、止まる気配がまるでない。


「まずは綿棒で耳かきしていくね。お兄ちゃんはリラックスして目を瞑ってるだけでいいからね」

「わっ……分かった」

「それじゃあ、行くよ」

「おう、どんとこい」


 俺が目を瞑り、その時を待っていると、綿棒の表面が、俺の外耳にピトっと当たった。

 そして、優しく丁寧に、ゆっくりと綿棒を動かしていく。



 サクッ……サクッ……サクッ……。

 スリッ……スリッ……スリッ……。


 まずは耳の穴の外側を、紫音は絶妙な力加減で掃除してくれる。

 その心地良さと言ったら、今までの音声だけで聞いていたASMRとは比べ物にならない。


「どうかな、気持ちいい?」

「うん、凄い気持ちいいよ。耳かき、上手くなったんだな」

「当たり前だよ。もうかれこれ一年以上耳かきしてますから」

「それもそうか」


 シャキ……シャキ……シャキ……。

 スンッ……スンッ……スンッ……、


「ふふっ……やっぱりお兄ちゃんのお耳、掃除し甲斐があるね」

「ごめん、汚かったか?」

「大丈夫だよ。私が今日全部綺麗にしてあげちゃうから。お兄ちゃんはただ横になって、安心して私にお耳綺麗にされちゃおうねー」


 この年になって、妹にリアルで耳掃除をされるとは夢にも思っていなかったので、何ともむずかゆい。


「フゥーッ」

「⁉」


 その時、紫音が耳を温めるように優しく吐息を吹きかけてきた。

 俺は必死に身体を強張らせ、身体がビクンとなってしまうのを必死に耐え凌ぐ。


「えへへっ……お兄ちゃんのお耳掃除してたら、耳フーしてあげたくなっちゃった」

「か、勘弁してくれ……」

「別に我慢しなくていいんだよ? 妹の前で、たくさんビクビクさせちゃって?」


 小悪魔めいた口調で言ってくる紫音に対して、俺は兄としての威厳を失いかけていた。

 けれど、兄としての面目を保ちたい以上、絶対にビクってならないぞと心に誓う。


「ふふっ……そんな反抗的な態度取られると、余計にビクビクンってお兄ちゃんをさせたくなっちゃいます。フゥーフッ、フッ、フッ、フッ……」


 迫りくる耳フー連続攻撃。

 その攻撃を、歯を食いしばって耐えしのぐ俺。


「むぅ……」


 耳フー攻撃を耐えしのがれて、紫音は不機嫌そうな声を上げる。


「ま、今のところは良く頑張ってると褒めてあげます。これからお兄さんをビックンビクンさせてあげるんですから」


 そう言って、紫音はゆっくりと綿棒を耳穴の入口へ付けると、そのままズイっと奥へ突っ込んでいく。


「はーい、それじゃあ今度は、お耳の穴も掃除していきますねー」


 シャリッ……シャリッ……シャリッ……。

 カキィ……カキィ……カキィ……。


「うぉっ、凄くいい」

「ん? ココが気持ちいの?」

「うん、すごくいいぞ」

「ふふっ、じゃあこのまま続けるね」


 コリィ……コリィ……コリィ……。

 ジョリッ……ジョリッ……ジョリッ……。


 器用に耳奥へ綿棒を突っ込み、ぐりぐりと耳奥を掃除していく紫音。

 丁度痒い所をピンポイントで刺激されて、心地よい刺激が俺を襲う。

 優しくわっかを描くようにして、ぐりぐりと綿棒を回しながら、奥から徐々に浅い部分へと綿棒を取り出していく。


「うわぁー……お兄ちゃんのお耳の穴きたなーい」

「ご、ごめん」

「謝らなくていいよ。私が今からピッカピカにしてあげるからね。それじゃあ今度は、反対のお耳掃除していくから、ゴローンしようね」


 俺は言われた通り、紫音の身体側を向いて、今度は右耳が上になるようにする。

 すると、紫音が俺の顔にお腹をぺたりと張り付けてきた。


「はい、ギュゥゥゥゥーッ」

「ちょ、紫音⁉」


 俺の頭を抱き締めてきた途端、紫音の匂いが鼻孔をくすぐってくる。

 寝間着越しに触れている紫音のお腹はとても温かくて、包まれていると凄く安心させられてしまう。


「えへへっ……それじゃあ右耳もお掃除していくね」


 こうして、まるで恋人ような甘い時間を過ごしながら、俺は妹にドキドキさせられっぱなしのまま、右耳のお掃除もしてもらった。


「はい……綿棒耳かきおしまい」

「ありがとう、凄い心地よくて、耳もすっきりしたよ」


 紫音が一旦身体をすっと上に上げて離れたので、俺が身体を起こそうとすると、ガシっと頭を掴まれ、太ももへと戻されてしまう。


「何言ってるの? まだまだこれからだよ?」

「えっ……まだ何かあるのか?」

「次は、お兄ちゃんの為にオイルマッサージをしていきます」

「オ、オイルマッサージ……だと⁉」

「今日はね、シトラスの香りがするオイルを使っていくよ」

「待て待て待て、流石にそこまでやってもらう必要は――」

「言ったでしょ? 今日は、お兄ちゃんの為だけの特別コースなんだから、いっぱい甘えていいんだよ?」


 そういう問題じゃないんだよ!

 せっかくここまで必死に耐えてきたというのに、オ、オイルマッサージなんてされたら、ビクンビクンしてしまうの未来が目に見えている。

 それどころか、妹相手に変な気分を抱いてしまう可能性だってゼロではないのだ。

 俺の心配をよそに、紫音はオイルを手のひらに垂らしてしまう。

 手をスリスリとさせ、ネチョネチョと何とも生々しい音を響かせて、オイルを手に馴染ませていく。


「それじゃあ行くね」


 ペチャっと俺の両耳に、少し冷たい感覚が当たったかと思うと、そのまま刷り込むようにして、指先で優しく耳周りをマッサージするように、オイルを摺り込ませてくる。


 シャカ……シャカ……シャカ……。

 ジュル……ジュル……ジュル……。


「うぅっ……」


 俺はついに耐え切れなくなり、ビクっと身体を震わせてしまう。


「ふふっ……オイルマッサージゾクゾクするでしょ?」

「うん……予想以上に刺激がやばい……!」

「それじゃあ、お兄ちゃんのもっとビクビクするところ、いっぱい見せてね♪」


 ペチョ……ペチョ……ペチョ……。

 ヌチャ……ヌチャ……ヌチャ……。


 耳を刺激される都度、何度も脳がトロトロ、耳がゾワゾワしてしまい、ビクビクビクっと何度も絶頂を繰り返してしまう。


「ゆらのオイルマッサージでもーっと身体の芯までヘニャヘニャにしてあげるね♪」


 紫音がゆらちゃんボイス全開で囁き声を発しながら、オイルマッサージをさらに続けてくる。


 グチュ……グチュ……グチュ……。

 ネチョッ……ネチョッ……ネチョッ……。


「あぁっ、紫音、それやばいって……!」

「ふふっ、気持ちいいよね。大丈夫だよ。もしお兄ちゃんが情けない姿晒しちゃっても、ゆらがいっぱい、優しく包み込んであげるからね♪」


 もう恥じらいなど捨ててしまえと言わんばかりに、紫音はオイルマッサージの手を止める事なくさらに激しくしてくる。


 クニュ……クニュ……クニュ……。

 シュリ……シュリ……シュリ……。


 あっ、まずい。

 これ本当にダメな奴だ。


「なでなでなでなでー。よしよしよしよし……」


 紫音に両耳オイルマッサージと優しい囁きボイスで癒されながら、俺はついに妹とゆらちゃんの狭間にある禁断の深海へと、足を踏み入れて行ってしまうのであった。

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