第57話 妹との事後

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 紫音のオイルマッサージを堪能し終えた頃には、俺のカラダ全体が火照りに火照っていて、額は汗でグッショグショ。

 息も絶え絶えで、何も考えられない状態とはまさにこの事。


 俺は妹に、何か大切なものを奪われたような気がした。

 まだ胸の高鳴りは止まらず、変なドキドキまで感じてしまっている。

 ぐったりと妹の膝元の上で息絶えて倒れ込む兄を見て、紫音は満面の笑みを浮かべていた。


「ふふっ……いっぱいビクビクしてかっこよかった。私の為にありがとね、お兄ちゃん♪」

「あ、あぁ……」


 気持ちは妹で致してしまった気分そのもの。

 まさに、これが事後という感覚なのだろうか。


 経験したことがないので分からないけれど、とにかくとても充足感に満たされると同時に、どっと疲れ果ててもいた。

 薄暗い部屋の中、妹からの甘々たっぷりオイルマッサージを受け終えて、膝枕をし合って微笑み合う兄妹。

 果たしてこれが、現実なのだろうかと錯覚してしまうほどには、異質な光景がそこには広がっていることだろう。

 ようやく息が落ち着いてきた俺は、ふぅっと一つ息をついてから身体を起こした。


 身体の芯まで妹に犯されてしまい、身体の体幹は何処へ?


 ふにゃふにゃと身体はタコのように揺れ、俺は立ち上がることが出来ずに、そのまま四つん這いにへたり込んでしまう。


「あぁヤベェ……目がくらくらする」

「もう少し膝の上で休憩してたらよかったのに」


 これ以上妹に甘やかされてしまったら、俺の気持ちが溢れ出てきてしまい、我慢できなくなりそうだったとは、口が裂けても言えなかった。


「汗やばいな俺、ちょっとシャワー浴びてくるわ」

「それじゃ、私も入っちゃおっと」


 そう言って、紫音がおもむろに立ち上がる。


「じゃあ先に入っていいぞ」


 俺がそう促すと、紫音はきょとんと首を傾げた。


「何言ってるの? お兄ちゃんと一緒に入るんだよ」

「……はぁ⁉」


 紫音のとんでもない発言に、俺は驚愕の声を上げてしまう。


「おまっ……何言っちゃってんの⁉」

「だって、私達、こんな関係になっちゃったんだし。もう別に良くない?」

「こ、こんな関係ってなんだよ?」

「い、言わないと分からない?」

「やっぱなし! 言わなくていい」


 説明しよう!

 紫音が恍惚な表情で見つめる視線の先には、妹相手に欲情してしまったジュニアくんがビーンと寝間着越しから突き出ているのだ。


「と、とにかく! 風呂はダメ! 耳かきぐらいは許せる範疇だけど、それ以上の事はいくら仲直りしたとしてもできない!」

「妹でおっきくさせてる時点で説得力皆無だけど?」

「うっ……」


 仕方ない。

 だって紫音がゆらちゃんで、ゆらちゃんが紫音なのだから。

 目を閉じて聞いていると、囁くたびに、ゆらちゃんが脳内に現れてはイチャイチャ、現れてはイジイジしてきてしまうのだから。


「と、とにかく! 俺は後でいいから先に入ってくれ。明日も学校あるんだから」

「はぁーい。それじゃあ、マットとか畳んで全部部屋に戻しておいてくれる?」

「あぁ……分かった」

「それじゃあ先にお風呂入るねー」


 そう言って、紫音が部屋を出て行くために歩き出したかと思うと、扉を開ける寸前で立ち止まり、ちらりと顔だけこちらへと向けてくる。


「お休み、お兄ちゃん。チュっ」

「なっ……⁉」

「えへへっ、お風呂入ってきます」


 満面の笑みで投げキッスをして、紫音は部屋を後にした。

 一人取り残された俺は、はぁっと盛大にため息を吐くことしか出来ない。


「ったく……勘弁してくれ」


 妹にガチ恋とか、マジで笑えんから。

 近親相姦ルートだけはごめんだ。


 とは言いつつも、今日一日で、完全に俺の心は紫音によって支配されてしまった。

 昨日までのように毛嫌いするような態度を取る事はなく、今まで離れていた時間の蓄積を補うかのように、これからは可愛い可愛い妹が、グイグイ兄に構ってと言わんばかりに甘えてきてくれるのだろう。

 嬉しい事ではあるものの、俺がシスコンに完堕ちてしまう日も、そう遠くないと感じてしまった。


 これから雪谷兄妹は、今までの関係修復とは別に、新たな形での兄妹象というのを作り上げていくのだろう。


 夏川ゆら事件は無事に解決。

 シスコンENDで、俺は幸せな生活を送っていく。

 この時の俺は、そう思っていた。

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