第46話 憧れの男の子からの告白
それは、私、沼部悠羽が、当時まだ中学生の頃の話である。
私は、クラスメイトの雪谷礼音君のことが気になっていた。
誰にも物怖じしない活発さと、人となりの良さを端から見ていたら、自然と目で追うようになっていて、気づいたら特別な言葉にならない感情が湧き出ている。
そんな感じの、誰にでもある様なささやかな恋心。
「礼音ー!」
「おう黒亜」
しかし、休憩時間になると、いつも彼の元へとやってくる一人の女の子がいた。
彼女の名前は大塚黒亜ちゃん。
彼と彼女は小さい頃からの顔見知りで、いわゆる幼馴染という関係らしい。
いつも休み時間に隣のクラスからわざわざやってきて、二人でくだらないことを話しながらじゃれ合っている。
「いいなぁー」
私はただその光景を、指をくわえて見つめることしか出来ず、羨ましいと思っていた。
そんなある日の放課後、私が教室で宿題をしていると、ふと教室に雪谷君が現れた。
「あれっ? 沼部さんじゃん。こんな時間までどうしたの?」
声を掛けられた私は、嬉しさと同時に気恥ずかしさを覚えてしまい、素っ気ない態度を取ってしまう。
「宿題してた……」
「そうなんだ! いやぁー沼部さんは凄いな。勉強もしっかりこなしてて」
「そ、そんなことない。ただ、頼れる人がいないから……」
つい、言わなくてもいいようなことを口走ってしまう。
幻滅されたかな……。
そんな心配は杞憂で、雪谷君はふっと笑みを浮かべながら私の元へと近づいてきて――
「なら、俺を頼ってよ」
「えっ?」
まさかの展開に、私は開いた口が塞がらない。
それどころか、雪谷君は私の手を握り締めてきた。
途端、私の胸はきゅっと締め付けられ、体温がぐんぐんと上昇していく。
「実はさ……俺、沼部さんの事、ちょっといいなーって思ってたりしてたんだ。だからもし沼部さんが良ければだけど、少しずつでいいから仲良くできたらなって」
これはもしかして、雪谷君からアプローチされてる⁉
今目の前で起こっている事実を、私は信じることが出来なかった。
「でも、雪谷君には、もう彼女さんがいるでしょ?」
だから私は、冷淡な口調でそう言い放ってしまった。
「ん、彼女? 別にいないけど」
「でも、いつも休み時間に仲良さそうに話してる子いるでしょ?」
「あぁ、黒亜のことか。アイツは彼女なんかじゃねぇって。ただの友達というか、悪友みたいなもんだよ」
「そ、そうなの? 恋愛的な感情とか、持ってたりしない?」
「持ってないよ。というかむしろ、恋愛的感情を持っているとしたら、沼部さんに持ってるというか……」
雪谷君は、照れくさそうに頭を掻きながら、もうほとんど告白じみたことを言い出した。
私はその言葉を受けて、ただ茫然と目をパチくりすることしか出来なくなってしまう。
「ってごめんね! こんなこと言われたら、迷惑だったよね」
咄嗟に手を離して、一歩距離を取る雪谷君。
触れられていた手が、ほんのり温かい。
「ううん。平気」
私がそう答えると、教室内が気まずい沈黙に包まれる。
「じゃ、じゃあ! まあそう言うことだから、一応考えといてもらえると助かる。それじゃあ!」
「うん、またね雪谷君」
雪谷君はくるりと踵を返して、逃げるように教室を出て行ってしまった。
教室は再び静寂に包まれ、取り残された私は、思わず手で顔を覆い隠してしまう。
「~~~~~~~!!!!」
声にならない声を上げて、私は足をバタバタさせて悶絶する。
嘘……雪谷君が私の事好きだなんて……。
夢じゃないよね⁉
確認するように、頬を抓ってみるものの、普通に痛みを感じるので、どうやら現実のようだ。
平静を保とうとしても、勝手に頬が緩んでしまう。
ダメだ、こんな姿、絶対に他の人には見せられない。
私は急いで身支度を整え、誰にも気づかれぬよう学校を後にする。
その日は、私にとって、人生で最高潮の日となったのであった。
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