第47話 イラつく態度 黒亜視点
ある日の放課後、私、大塚黒亜は、屋上にとある女の子を呼び出した。
事の発端は、幼馴染である雪谷礼音から、相談を受けた時に遡る。
「なぁ黒亜。好きな人が出来たら、どうアプローチするのが正しいと思う?」
「……はぁ⁉ 何、アンタ好きな人できたわけ⁉」
「いや、出来たってわけじゃないんだけど、ちょっと気になってる人がいるというか……」
「なんだしそれ」
はっきりとしない受け答えの礼音に対し、苛立ちを覚えつつ、私は顎に指を当てながら考える。
「好きな人かぁー。アーシ、そういうの考えたことないなぁー」
「だよなぁー。俺も初めての経験で、どうしたらいいか分からないんだよ」
「ふぅーん。アンタも大人の階段をようやく登ったってわけね」
「変な言い方するなっての。それに、フラれる可能性の方が高いんだから」
「まっ、アンタは積極的なタイプってわけでもないし、仕方ないっちゃ仕方ないか」
「う、うるせぇな! それで、どうすればいいと思う?」
「そんなの、アーシに聞かれても困るし」
「はぁ……どうすりゃいいんだよ」
「まっ、ずっとその子のことしか考えられなくて、私生活に支障が出るレベルなら、いっその事勇気を出して告っちゃえば?」
「えぇ⁉ そ、そんなの無理だって」
「うん、知ってた」
「おい」
「あははっ! ごめんて。まあでも、本当に好きなら、こっそりアプローチしてみるところから始めるしかないんじゃない? 連絡先とかぐらいは流石に知ってるっしょ?」
「いやそれが、連絡先すら知らないんだよね」
「はぁー? なにそれ。ならまず、連絡先から交換すればいいじゃん」
「でも……どうやってすれば」
「あ”ーもーそんなの、知り合いに頼んで教えてもらえいーでしょーが!」
「俺が話せる女友達。お前しかいないんだが?」
「へっ、アーシ⁉」
「いや、やっぱいい。自分で何とかする」
「なんだし。それじゃあまるで、アーシが信用されてないみたいで納得いかないんですけど」
「いや、今回は黒亜に頼らず自分でやってみたいって思っただけ。黒亜のことは信頼してるし、尊敬もしてる」
「ならいーし」
そんな出来事があってから、一週間ほどが経過したころ。
アーシの身の回りに変化が訪れた。
「ねぇねぇ沼部さん、ここの問題なんだけど、良かったら教えてくれないかな?」
「ん? あぁ、ここはね――」
私がいつものように気晴らしに礼音の教室へと向かったら、知らない女と仲良く話している姿を見てしまったのだ。
彼女の名前は沼部悠羽というらしい。
見た目はパッとせず、物静かな印象を受ける。
礼音は、まるで尻尾を振って飼い主の元へ向かう犬のように、彼女の元へ向かうと、楽しそうな様子で話し込んでいた。
そんな表情、私の前で見せたことないのに……。
私の胸が、チクリと針のようなもので刺されたような痛みを感じたような気がした。
それから、私の休み時間は、礼音が構ってくれなくなったことで、段々と寂しいものへと変化して行ってしってしまい、気づけば、徐々にそれが怒りの感情へと変化していった。
「ぐぬぬぬぬぅぅ……アイツ……アーシのこと放っておいてぇぇぇぇ!!!」
礼音に対する怒りもそうだが、もう一つ私には納得のいっていないことがあった。
それは、あの沼部悠羽とかいう女の態度。
礼音が好意を前面に出してるってのに、あの素っ気ない態度は何⁉
少しは興味を示してあげなさいよ!
礼音が可哀そうでしょうが!
怒りの矛先は、いつしか礼音から拡大して、沼部悠羽にも向いてしまっていたのである。
ついに我慢できなくなってしまった私は、とうとう休み時間に沼部悠羽の元へと足を運び、言い放ったのである。
「放課後、屋上へ来い」と。
そうして、放課後を迎えたわけだが、当の本人は中々姿を現さず、私の苛立ちはさらに増していく。
その時、キィッとドアの軋む音が聞こえてきたかと思うと、ひょっこりと沼部悠羽が姿を現した。
「やっと来たわね」
私が腕を組みながらそう言うと、彼女はおずおずとこちらへ近寄ってくる。
「単刀直入に聞く。アンタ、礼音とどういう関係なワケ?」
開口一番に、私がそう尋ねると、沼部悠羽はすっと視線を逸らしながら答えた。
「別に、ただのクラスメイトってだけ」
「嘘! だって明らかに最近、アンタ、アイツと二人で仲良さそうに話し込んでるじゃない!」
「それは、雪谷君が一方的に話してきてるだけで」
「なら、迷惑だってはっきり言えばいいじゃない。それを言わないってことは、少なからずアンタにもアイツに対して何かしらの好意を持ってるって事でしょ?」
遠回しな言い方に、私の口調も段々と荒くなってきてしまう。
「はっきり言ってみなさいよ!」
私が半ば脅迫じみた口調で問いただすと、沼部悠羽は先ほどまでの弱気な姿勢が嘘のように、ぎろりとこちらを睨みつけてきた。
「あなたに私の何が分かるって言うの?」
「別に、アーシはアンタの事なんてどうだっていいの。アイツがアンタの事好きだって言うから、応援してあげようと思ったのに、アンタが全然嬉しそうにしないから……」
自分で言っていて、徐々に悲しい気持ちが沸き上がってきてしまい、私はぐっと歯を食いしばってしまう。
「嬉しそうになんて、出来るわけないでしょ」
すると、沼部悠羽はぐっと拳に力を入れてそう呟いた。
「はぁ、どうしてよ⁉」
「あなたが苦しむことになるからよ」
「は、はぁ⁉ アーシのことは今関係ないでしょ」
「ある。大あり。大体、私をわざわざ屋上へ呼び出したのはどうして? 雪谷君を応援してあげたい? 冗談も大概にしなさいよ。本当は、私と雪谷君が仲良くしてる姿を見て嫉妬してるんじゃないの?」
「なっ……なんでアーシがアイツに嫉妬なんかしなきゃいけないんだし!」
「あなたの態度を見ていれば分かる。私が雪谷君と話している間、ずっとつらそうにしてるから」
「し、してないし! 別にアイツ事なんかどうでも……」
後戻りできず、私は意地を張ることしか出来なくなってしまう。
自分で言っていて、惨めな気持ちになってくる。
「それじゃあ、私が雪谷君をあなたから奪ってもいいのね?」
すると、沼部悠羽は私が一番危惧していた言葉を口にしてきた。
「は、はぁ⁉ 意味わかんないし」
「言っておくけど、私はもう雪谷君に好意を伝えられた。今は保留にしてもらっているけど、私がOKを出せば、いつでも付き合うことが出来るのよ。それでもあなたは、自分の気持ちに嘘をつき続けるつもり?」
「なっ、何言って?」
「いいから言いなさいよ。悔しかったんでしょ? 自分じゃなくて、雪谷君の好きな人が私だったこと」
「……う、うっさい、うっさい、うっさい、うっさい!! 知ったような口聞くな、いい加減にしろ!」
怒りが頂点に達してしまった私は、これ以上対話が不可能と判断して、その場を立ち去ろうと扉の方へ歩いて行く。
「逃げるの? 自分の気持ちをひた隠したまま?」
「うっさい! アンタにはアーシの気持ちなんて分かるわけないんだから!」
そう吐き捨てて、私は屋上を後にする。
まるで、私に同情するような態度。
主導権は私が握っているのよとも言いたげな感じが、本当に許せなかった。
「もう、なんなんだし!!!」
私は感情を抑えることが出来ず、階段の踊り場で地団駄を踏んでしまう。
ピンポンパンポーン。
『二年二組大塚黒亜。至急職員室まで来るように』
そんな時、校内放送が鳴り響き、私を呼び出す担任の先生の声が聞こえてきた。
「あぁもう! こんな時に呼び出しとか、なんなのもう……!」
私は、その足で職員室へと向かうわけだが、まさかこれが、私の最後の思い出になるとは、この時の私は微塵も思っていなかった。
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