第28話 罵倒攻め堕ち
「あ“あ”ぁ“ぁ”……う“ぅ”ぅ“ぅ”ぅ“……」
翌朝、俺は悪夢のささやきに苛まれ、教室で唸り声をあげていた。
「どうした礼音。ゾンビみたいな声出して大丈夫か? ってか、目も死んでるぞ」
俺の様子がおかしいことを察知した台賀が、心配そうに声を掛けてきてくれる。
「あ“? なんだ台賀か。いやっ、昨日貫徹したせいで眠すぎてよ……」
「なんでこんな時期に徹夜なんかしてるんだよ? テスト前でもあるまいし」
「いや、ちょっと色々あって面白い動画見てたら、気づいたら朝になってたんだよ」
嘘である。
面白い動画ではなく、奥沢さんがASMR配信者なのではないかという仮説を検証するため、ひたすら罵倒系ASMR配信者の動画を漁りまくっていたのだ。
俺の事情など知る由もなく、台賀は納得して腕を組みながら語りだす。
「あーでも分かるわ。俺も面白い動画とか見つけちゃうと、中々見るの止められないんだよな」
「だよなー。それで結局、夜遅くなっちまうわけだ」
「でも、貫徹は流石に馬鹿すぎだろ。授業寝るつもりか?」
「ははは……ほんと、自分でも馬鹿だと思う。悪いけど後でノート見せてくれ」
そんな会話を台賀と交わしつつ、俺は前方の席に座る悠羽へ視線を向ける。
園田わかばという配信者が、悠羽であることが分かったものの、奥沢さんがASMR配信者であるという痕跡は、見つけることは出来なかった。
そもそも、奥沢さんがASMR配信者であるという仮説は間違っているのかもしれない。
まあひとまず一旦奥沢さんの件は置いておくとして、一つ気になったのは、園田わかばのASMR配信についてだ。
SNSで調べてみると、園田わかばの人気っぷりは凄まじく、罵倒Sっ子系ASMR配信者ではトップクラスの数字を誇っている。
その結果、俺は園田わかばの配信をいくつか聴いているうちに、罵倒ASMRに嵌ってしまうという事態に陥っていた。
中でもイチ押しだったが、オイルを使った両耳指かき耐久マッサージ。
◇◇◇
『んじゃ、今日はアンタ達の糞穴にローションぶっこんでくけど、動いたらお仕置きだから』
そう前置きしつつ、わかばちゃんの両耳オイル指掻き炸裂。
ペチャ……ペチャ……ペチャ……ペチャ……。
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ……。
ベチャ……ベチャ……ベチャ……ベチャ……。
グチョ、グチョ、グチョ、グチョ……。
何とも際どい音が絶え間なく俺の耳へと襲い掛かり、ビクン、ビクンと何度も身体を跳ねてしまい、昨夜はクタクタになってしまった。
『ふふっ、気持ちいいんだ。きっしょ。でも動いたらどうなるか、分かってるよね?』
グパッ……グパッ……グパッ……グパッ……。
グチュ……グチュ……グチュ……グチュ……。
聴いているリスナーを試すように、指をグリグリするスピードを一段階早めていく園田わかば。
まさにそのドSっぷりは、サキュバス悪魔そのもの。
『んふふっ……君の顔、ゆるゆるに緩んじゃってるよー? ほらほらほら、そのキモイ顔、もーっと私に見せて?』
クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ!
指を奥に詰めっぱなしで、指先だけで耳奥をグリグリといじられ続け、俺の身体はついに限界を迎え、ゾクゾクがマックスに達してしまう。
そしてついに、ビクン、ビクンと身体が勝手に跳ね続けてしまう始末。
悶絶地獄とはまさにこの事。
我慢しすぎたせいで、わかばちゃんが耳奥を指でクチョ、クチョ、グチュ、グチュといやらしい音をたてるごとに、身体が悶えて仕方がない。
すると、リスナー達も反応は同じだったようで、タイミングを計ったようにわかばちゃんが声を発する。
『ねぇ……動いちゃだめって言ったよね? なーに勝手に気持ちよくなっちゃってるのかなー? 最初に言ったよね? 身体ピクンって悶えて動かそうものなら、お仕置きするって』
その言葉を聞いて、リスナー達と同じように、ひぃっと身体をこわばらせてしまう。
『謝ってもダメだから。約束を破った悪い子には、お・仕・置・きだよ♪』
悪魔のような笑い声を出したかと思えば、本気のオイル指耳かき発動。
フルスロットルでドバドバ、ネチョネチョ、グショグショ耳責めされる。
「うぅっ……ヤバッ……」
『ふふっ……どう? 我慢できないでしょ? あーあーあー、そんなに身体ビックン、ビックンさせちゃって……気持ち悪。でも、やめてあげなーい! だってこれは、お仕置きなんだから』
そう言ってコンマ何秒という早さでクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュと指耳かき攻撃を受け続けること数十分。
『ほら、行くよ、いくよ、イくよ? えいっ……!』
刹那、最後に思いっきり耳穴の最奥まで指を突っ込まれ、穴を完全にふさがれる。
既に俺の痙攣は止まらなくなっており、体力もすり減ろヘロヘロ状態。
クパァッ……っと指圧が終わり、わかばちゃんが耳穴から指を出す。
『うっわぁー。私の指とアンタの耳穴から糸引いちゃってるよ。きっしょーい』
けらけらと笑いながら生々しい解説をしてくるわかばちゃんに対し、俺を含むリスナー達は既に賢者モードでコメントする余裕すらない。
『ふぅ……アンタも私も大満足♪』
わかばちゃんは実に楽しそうに小声で囁いてくれたかと思いきや、うっと嫌そうな声を上げた。
『ってかアンタの耳、オイルまみれでクッソ汚いんですけど。ッチ、はぁ……タオルで拭くの面倒だから、今日は特別に私が履いてる靴下で拭くけど、別にいいよね?』
尋ねてきたにもかかわらず、わかばちゃんは有無を答える前に、グリグリっと履いている靴下でオイルを拭き取るように耳を擦り上げていく。
『ふふっ……何々? 雑に靴下でオイル拭かれてるだけなのに気持ちよくなってるの? キッモ。本当にどうしようもない変態だね。ほら、フキフキー。あっ、ちなみに、今日私が外に履いて行った靴下だから、すっごい汚れてて汚くてくっさーい奴だよ♪』
そこでふと、園田わかばが悠羽であることを思い出してしまう。
悠羽が普段学校で履いているソックスを思い浮かべてしまい、あれで今耳のオイルを拭き取られているのかと考えてしまうと、俺の顔が引きつってしまう。
すまん台賀、悠羽にいじめられたいという気持ちは共感できたけど、足で踏まれる良さは永遠に理解できそうにない。
◇◇◇
とまあそんな感じで、園田わかばのドS系ASMRにドハマリしてしまい、見事に貫徹してしまったわけである。
昨日は激しいプレイ(ASMR)をずっと体感していたので、疲れきっていて思考が回らない。
そんな中、見覚えのある少女がこちらへと歩いてきた。
先に反応したのは台賀。
「おはようー悠羽ちゅわーっ、んごっ!!!」
見事な足さばきから台賀撃沈。
そのまま床に跪いた台賀の頭を、悠羽は朝っぱらからフミフミ、フミフミ。
「死ね、クソ変態。お前は地の果てまでめり込め」
蔑むような視線で台賀を見下ろす彼女こそ、園田わかばの中身である沼部悠羽。
悠羽のドSっぷりは、校内だけに収まる事を知らない。
そんなことを思いつつ、二人のいつものSMプレイをぽけーっと眺めていたら、悠羽の視線が俺へと移る。
「おはよう雪谷」
「お、おう……」
「目の下のクマ凄いけど、何かあった?」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
「ま、雪谷がクソザコなのは知ってたけど、そこまでとは私もドン引きだよ」
「うぐっ……違うんだって、これには深いわけが……」
「まっ、いいよ。今日の放課後、また理科実験室に来て。来ないとどうなるか分かってるでしょ?」
その冷たい言葉に、俺は思わずぞっと身震いしてしまう。
俺が怯える様子を見て、にっこりと満足そうな笑みを浮かべた悠羽は、くるりと踵を返して自席へと戻っていく。
ヤバイ……このままだと悠羽に一生服従させられてしまうかもしれない。
「あぁ……っ、今日も悠羽ちゃんの足は最高だぜ……」
そんな俺の危惧をよそに、悠羽に足で踏まれ、満足そうに顔を緩ませている変態を見て、こうはなりたくないと我に返った。
正直、放課後が不安でしかない。
そこでふと、園田わかばの性格を思い出す。
もし仮に、俺が授業中寝てしまったら、放課後悠羽に何と言われるのだろうか?
想像しただけで、ぞっとしたものが身体の奥底から湧き上がり、俺は思わず身震いしてしまう。
俺の眠気は完全に吹っ飛び、恐怖に打ち震えながら、放課後までの授業を何とかやり過ごすのであった。
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