第22話 衝撃的な発言

「な、なんとか間に合ったぁ……」


 無理やり課題を終わらせて、寝る支度を整えた俺は、Blueto〇thイヤホンを装着してベットへ寝転がる。


 スマートフォンの画面には、『今日もみんなのお耳をトロトロにシちゃうぞ♡ 絶頂耳かき』というタイトルが表示されており、ゆらちゃんの生配信を今か今かと多くのリスナーが待ちわびていた。


 俺はスマートフォンを横に置き、目を閉じてその時を待つ。

 久しぶりのゆらちゃんの生配信ということもあり、俺は無駄に緊張していた。

 何も聞こえない無音の時間が余計にそれを助長させる。


 しばらくすると、カチっというマウスのクリック音と衣擦れの音が聞こえてきた。


 そしてついに――


『こんばんはぁ~。夏川ゆらだよぉ~。みんな久しぶり、元気にしてたかな?』


 ゆらちゃんの囁き生ボイズが礼音の脳内へ響き渡る。

 

 あぁ……久々に聞くゆらちゃんの生ボイス!

 俺の中の幸せホルモンがドバドバ溢れ出す。

 この瞬間が、俺にとって至福の時間である。


 ちらりと、配信のコメント欄を覗き込むと――


 ――ゆらちゃーん♡

 ――待ってましたー!!!

 ――寂しかったよー泣


 という、リスナー達のコメントであふれかえっていた。


『ふふっ……。みんなそんなに寂しかったの? ヨシヨシ。今日はみんなに寂しい思いをさせちゃった分、たっぷりあなたの汚れた耳をお掃除していくから、覚悟しといてね♪』



 ――やったぁぁぁぁぁ!!!!

 ――いっぱい耳かきしてー♡

 ――三日前から寝転がってスタンバってました



 コメント欄のリスナー勢も大変うれしそうだ。


『じゃあ早速、膝枕しながら耳かきしていくね♪ 今日は左耳からしていくよ。はい、ゴロ-ン』


 俺もゆらちゃんの指示と同じように、ゴローンと左耳が上になるように身体を横に倒す。


『それじゃあまずは、綿棒で耳かきしていくね♪』


 あぁ……ついに来る。

 これから訪れる快感に備えて、身構えたところで――


『ふぅぅぅぅぅーっ』

「⁉」


 不意打ちの耳フーが炸裂する。

 予想外の攻撃に、俺の身体は自然とピクンと跳ねてしまう


『えへへっ……残念でしたー。耳フーが先だよ♪』


 そうやって視聴者のみんなの裏をかいてくるおちゃめなところも含めて、ゆらちゃんはやっぱり最高だ。


『じゃ、そろそろみんな待ちわびているだろうから。耳掻き始めていくねっ』


 ゆらちゃんがそう発言した直後。


 シュルシュルシュル……。

 サッ、サッ、サッ……。


 綿棒が外耳に当たり、絶妙な心地いい音が礼音の耳を刺激してくる。


『カキッ……カキッ……カキッ……ジョリ……ジョリ……ジョリ……。フフッ、久しぶりだから、お耳結構汚れてるよ?』


 あぁ……凄いモゾモゾする。

 でも、それがいい!


 久々のゆらちゃん生耳かきに感動していると、パッとリップ音が聞こえてくる。


『君のお耳、綺麗にいっぱいお掃除していくね♪』


 耳元でそう優しく囁いてから、ゆらちゃんは再度綿棒を耳穴へと突っ込んできてくれる。


『ガリィ……ガリィ……ガリィ……ゴリィ……ゴリィ……ゴリィ……』


 ヤバイ、最高過ぎる……。

 やっぱり、ゆらちゃんの耳かきに勝るものはないな。


 今頃、俺の顔はだらしなく緩み切っている事だろう。

 けれど、どんなにだらしない顔を曝け出していても、ゆらちゃん以外に見られることはない。

 今は、二人だけの甘々な空間をたっぷりねっとり楽しむことが出来るのだから。


 こうしてしばらくの間、ゆらちゃんの綿棒ASMRに堪能する。


『……はい。右耳もお疲れ様―。それじゃあ今日は、指耳かきもしていくねー!』


 なっ……ゆ、指耳かきだと⁉


『それじゃあ、行くねー』


 ザッ……サクッ……サクッ……サクッ……。

 シャカ……シャカ……シャカ……。


 う、うぉぉぉぉぉぉ!!!!

 今、ゆらちゃんに指で耳ほじくられちゃってるぅぅぅぅぅ⁉⁉


『どうですかー気持ちいいですかー?』


 はいぃぃ、ぎもぢいいです!!!!


 スチャッ……スチャッ……スチャッ……。

 サシュッ……サシュッ……サシュッ……。


 綿棒とはまた違うゾワゾワとする快感が礼音を刺激する。

 しかも両耳同時にだ!


 脳にズンズン刺激がドバドバ。

 まさに指耳かきパラダイス。


 耳の穴に指を突っ込まれているという恥ずかしさと、快感が同時に訪れ、もうどうにかなってしまいそうだ。


『ふふっ……気持ちいい? 良かった』


 リスナーの反応に、嬉しそうな声音で答えるゆらちゃん。

 その後もしばらく、礼音はゆらちゃんの両耳指かきをじっくりと味わった。


 俺はもうトロトロにとろけきり、満足感を覚えていると、ふとゆらちゃんが雑談を始める。


『始まってそろそろ一時間ぐらい経つから、寝てる人も多いと思うけど、最近のお話をちょっと喋りっていいかな?』


 おっ、何だろう。

 配信中にゆらちゃんが自身の話をするなんて珍しいなと思いつつ、指耳かきをされながら耳を傾ける。


『最近色々と忙しくて、配信が出来なくて寂しかったんだけど、凄い嬉しい出来事が一つあったんだよね』


 うんうん、何かな何かな?


『実はね。身近に私のASMR配信を睡眠のお供にしてくれてる人がいたの。その人が夏川ゆらちゃんのASMRを聴いてるって聞いて、私びっくりしちゃったの』


 ほうほうなるほど、世間も意外と狭いからね。

 ネットが普及してきた今、もしかしたら身近にいる友達が配信者、なんて事があったっておかしくはない世の中だ。

 身近にファンがいてもおかしくない。


『それでね、私嬉しくなっちゃって、何とか気持ちを伝えたいと思って、ロッカーの中にこっそり手紙を忍ばせておいたの』


  

  ――いや、ゆらちゃんの行動力鬼www

  ――なにそれ、アオハルかよ!

  ――いいなぁーその人。ゆらちゃんからの直筆の手紙とか裏山。


 コメント欄もザワザワとざわつき始める。


『もちろん名前はぼかしてA君ってことにするけど、送った文面はね。【初めましてA君、夏川ゆらです。いきなりお手紙なんてびっくりしたかな? A君にどうしても伝えたくて、今回勇気を振り絞って書きました。捨てずに読んでね! いつも私のASMRを聞いてくれてありがとう! 校内に私のファンがいるって最初に聞いた時は、正直びっくりしたけど、その反面、応援してくれていることが素直に嬉しくて胸がキュンってなっちゃいました。これからもA君には、夏川ゆらの成長を見守っていて欲しいなと思います。もちろんA君にも、幸せな癒しをいっぱい届けてあげるね♪】 って感じだったんだよね』


 えっ、その文面、凄く身に覚えがあるような気が……。

 俺はベッドから起き上がり、学習机の電気をつけて、机の隅に放置されていた、白い便箋にはいった手紙を手に取る。


『今頃彼も、私のASMRを聴きながらリラックスしてくれてると良いなぁー』


 そんな風にぼやくゆらちゃん。



  ――えっ、ちょっと待って。ゆらちゃんガチ恋⁉

  ――彼ってことは男だよな? もしかしてゆらちゃんその人のこと好きなのか⁉

  ――NOooooooooo! 僕たちのゆらちゃんだけでいてくれぇぇぇぇ!!!!!

 

 コメント欄は荒れに荒れていた。

 そんな中、俺は呆然と立ち尽くし、汗が流れ出して止まらない。


 無理もない。

 だって丸っこい文字で書かれた手紙には、先ほどゆらちゃんが言った通りの文面が書かれていたのだから。


「う……嘘だろ……⁉」


 手紙を持つ手は震えてしまう。


 だって俺の身の回りに、最推しであるASMR配信者の夏川ゆらちゃんの(中の人)がいるのだから……!


 衝撃的過ぎて、俺はゆらちゃんの配信を最後まで聞き終えても、リラックスするどころか放心状態で、眠ることすら出来なかった。

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