第21話 手紙の内容

「ふぅ……いい湯だった」


 奥沢さんとの太ももご堪能イチャイチャタイプを終えた日の夜。

俺は風呂から上がり、バスタオルで身体を拭いてから寝間着へと着替えた。

 ドライヤーで髪を乾かしている途中、ふと頬に熱風が触れて、今日の出来事が頭の中でフラッシュバックする。


「にしても、今日も色々あったなぁ……」


 始まりは、昨日紫音から聞いた奥沢さんと礼音が付き合っているという噂からだった。

 

俺は朝早くから学校へと向かい、奥沢さんと話し合ったうえで、仮の恋人関係を築くことになって、ASM男から、奥沢優里香の彼氏という肩書がつき、一気に注目を浴びることに……。

 

昼休みに悠羽に事実を伝えると、彼女からは忠告を受けた。

何か分かっているようだったけれど、なんだったんだろうか?

迎えた放課後、奥沢さんが清楚ビッチと言われている原因が分かり、その後家にお邪魔させてもらって、太ももお楽しみタイプを過ごすことになるという壮絶な一日を過ごした。


「それにしても、奥沢さんの太もも、最高だったなぁ……」


 自身の頬を手で触れながら、奥沢さんの太ももの感触を思い出す。

 正直、奥沢さんの太もも攻撃は、俺の予想をはるかに超えてきた。

 完全に太ももフェチという新たな境地に目覚めてしまうほどには、効果てきめんである。


「また頼んだら、奥沢さんシてくれるかな?」


 でも、もしまたしてくれるような機会があれば、俺はきっと一生奥沢さんの太ももから出れなくなってしまうのだろう。

今思い出しただけでも、あの感触と温もりが記憶にこびりついていて、顔がデレーっと緩んでしまうのだから。


奥沢さんの太ももプレイを思い出しつつ、俺は髪を乾かし終えて、二階へと向かっていく。

すると、丁度階段を降りてくる妹の紫音と遭遇した。

 鉢合わせる形になってしまい、お互い足を止めて視線を合わせる。

紫音は、今にも舌打ちしそうな顔を浮かべながら口を開く。


「どいてよ。邪魔なんですけど」

「おぉ……悪い」


 俺がすっと道を譲ってあげると、紫音はぷぃっと視線を逸らしたまま前を通り過ぎ、そのままリビングへと入って行ってしまう。


「ったく……相変わらず可愛くねぇ妹」


 俺は紫音に聞こえぬよう悪態をついてから、階段を上って自室へと戻った。

 ったく、昨日あれだけ追求してきたくせに、自分が納得したらもう冷戦状態ですよ。


 最近、少し昔みたいに打ち解けられるのかと思ったのに、どうやら俺の思い違いだったらしい。

 部屋に戻り、礼音がスマートフォンを見ると、変態(台賀)からメッセージが届いていた。


『なぁ礼音。明日提出の数学の課題マジで鬼難しいんだが……。 答え写させてくんね?』

「ヤッバ、完全に忘れてた」


 台賀のメッセージで、俺も今課題の存在を思い出した。

 俺は慌てて台賀へ返事を返す。


『すまん、俺も完全に課題の存在忘れてた。悪いけど、他の奴に聞いて俺にもできれば写させて欲しい』


 俺は返信を送り終え、早速バッグから課題を取り出す。

 数学と言えば、俺はこの前ASMRの件で説教を食らったばかり。

 これでさらに課題まで未提出となれば、成績に影響してくるのは間違いないだろう。

 俺がバッグの中を漁り、課題の入っているクリアファイルを取り出すと、何かが床に落っこちる。

 見れば、それは昨日ロッカーに入っていた例の手紙だった。


「そう言えば、こんなの貰ってたなぁ……」


 裏返してみても宛先は書かれておらず、可愛らしいキャラクターシールで封止めされているだけ。


「まっ、ひとまず読んどくか」


 俺はシールを丁寧にはがして、恐る恐る封を開くと、中には一通の手紙が入っていた。

 手紙を取り出して、早速書かれている内容へ目を移すと、そこには丸っこい文字で文章が書かれている。


 読んでみると――


『初めまして雪谷君、夏川ゆらです。えへへっ、いきなりお手紙なんてびっくりしちゃったかな? 雪谷君にどうしても伝えたくて、今回勇気を振り絞って書きました。捨てずに読んでね! いつも私のASMRを聞いてくれてありがとう! 校内に私のファンがいるって最初に聞いた時は正直びっくりしたけど、その反面、応援してくれていることが素直に嬉しくて胸がキュンってなっちゃいました。これからも雪谷君には、夏川ゆらの成長を見守っていて欲しいなと思います。もちろん雪谷君にも、幸せな癒しをいっぱい届けてあげるね♪ それじゃあ、また癒しのひと時(ASMR)で会おうね♪ 夏川ゆらより』



 と、書かれていた。


「はぁ……ったくよ。やらせにも程があるだろ」


 俺は読み終えた途端、呆れ返って盛大なため息を吐いてしまう。


 確かに夏川ゆらちゃんは、現役の高校生という設定だけれど、リアルの(中の)人が実際に高校生な訳がない。

 それに、推しの配信者が同じ学校にいるとか、令嬢のお嬢様がクラスメイトとしてやってくるラノベかよ!ってぐらい現実味のない話である。


 まああれだ、バレンタインにチョコがもらえないことを嘆く男子に対して、当日ドッキリで男友達が作ってきた手作りチョコレートを手紙と一緒に机の中にこっそり忍ばせておくみたいな悪ふざけと同じ類だ。

 恐らく、ASMRで流れていた音声を特定した誰かが、悪戯にやったのだろう。


「って、いかんいかん。今はそれどころじゃなかった」


 俺はその手紙を適当に机の端に置いてから、取り組まなければならない課題へと意識を全集中させる。


「うわっ、てか今日ゆらちゃんの生配信の日じゃん! 急いで終わらせないと!」


 そこから俺は、台賀や悠羽の協力を得て、悪戦苦闘しつつも、何とか数学の課題を終わらせることが出来て、なんとかゆらちゃんの生配信に間に合うことが出来た。

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