第32話『瓦礫に花を咲かせましょう!』
むすっとしちゃうミカヅキに、手を合わせごめんってする。
「良いで御座る。拙者、ここで瞑想するで御座るから」
ぷい。
尻尾の先まで、あっちを向いちゃった。ごめんね~。
それでは気を取り直しまして……
「ディティクトマジック!」
魔力放射と魔力感知。
私は改めて三つの炉に触れてみます。
指先から魔力の波動を送り、その反射で内部の構造を読み取る。
内部外部の劣化。ひび割れ。欠損。耐熱煉瓦に生じたそれらを、片っ端から元素魔法で整えて行く。
「地よ! 水よ! 風よ! 火よ!」
物質の構造そのものを読み解き、微細な粒子単位で整列させていくイメージ。
レンガや繋ぎなどはその品質がバラバラなんだけれど、なるべく均一にしつつ、その密度を数倍に強化もして行く。素材は、この瓦礫の山。
私は天才じゃないから、老師たちに比べちゃうと全然遅い。だからその分、緻密にイメージを構築します。
ついでに、この炉はボイラーの役割も持たせたいわね。
上から流れ落ちる水の為の管を通す。賢者の塔にいっぱいあった、訳の判らない配管の数々。その中から、単純な形に。
煙突部に、螺旋を描く様に数本の配管を巡らせたわ。これでお湯が自由に使える筈ね。
最早、見えない手で行う粘土細工。
つうっと額を汗が伝い落ちます。
私が手を離す頃には、三つのパン焼き窯は、出来上がり新品みたいに!
「炉の蓋を……」
地面に手を着く。
当然、鉄の部品なんて一つも残っちゃいません。目につけば持っていってしまうんでしょうね。
でもこの辺りは扇状地だから、川が運んだ鉱物が、この場合は砂鉄ね、いっぱい土壌に含まれてる筈です!
「出来るだけ満遍なく……」
ちろり舌先で唇を舐め、集中!
この地域、全体の地面から少しずつ集めましょう。あんまり一か所から抜き出すと、地盤沈下させちゃうかもだし。
ぞわぞわぞわぞわと両の掌の下に集まって来ます。来てます来てます!
こうして人の頭位はある、うにゃうにゃとした砂鉄の塊を、今度は融解させ、不純物を抜き取りつつ、適度な柔らかさと固さを持つ鉄の板に。そこから、三つの留め具と、三枚の蓋を千切っては丸めて伸ばしてみょ~んと引っ張って、まあまあの出来かしら?
炉に取り付けて、何度も開閉して使い勝手を調整しました。
「で~きた♪」
「を? 終わったで御座るか?」
ぱちくり。目を開けたミカヅキがにょろにょろと近付いて来ました。
「ま、一応炉だけはね」
「なあ~んだ。じゃあ、今夜はここで野宿で御座るか?」
出来立ての炉を、下から上までしげしげと眺めたミカヅキは、ちょっと残念そう。
「大丈夫! ここからは早いから!」
「本当で御座るか~?}
じとっと見て来るミカヅキに、私はどんと胸を叩きます。
「炉はお店の命だから、めっちゃ丈夫にしたの。その分、時間もかかっちゃったから、多分、建物の方はもっと早い筈……よ?」
「え~……な~んてね。嘘で御座るよ。それがし、姉上を信じるで御座る」
「ま、どこでそんな口を覚えたのかしら?」
「ああ言えば、こう言うで御座る」
「うふふふ……」
「あはははは……」
笑いながら、私は右へ左へと手を振るいます。
もう、建物のイメージは私の中にあるのですから。
一階は、お店の窓口と作業場。そして奥には少しの物置スペース。トイレ。
二階三階は、私たちの寝室。全員が来たって充分に練れるだけの小部屋を用意するわ。
そして地下にはやっぱり地下室も必要よね。
裏には厩。物置。
太く丈夫な柱を四隅に。
壁も厚く、それ全体で建物の重さを支えるの。更には地下深くにまで大樹の如く根を降ろし、そこから壁全体で水を吸い上げるわ。そう、細い管が無数に下から上へと伸びて、水が自然と登って来る様に。そして、その深さは二重に。
ここは河口の扇状地。目には見えないけれど、大地の下に水が流れているわ。そして、真水より重たい海水は、更にその下に層を為す。
だから、屋上は二重底。大きな真水と小さな塩水の二つのプール。床全体のプールで水を張り、そこから配管を伝って色んな処へと水が流れ出る仕組みね。
床は!
壁は!
作業台は!
洗い場!
照明は!
排水も、トイレも、古い陶器の管が地中に埋もれていたから、そこに繋げて……こんな処かしら? あっと、ネズミが入らない様に、網目の格子と配管もS字にっと……。
「ふう……終わり。明日は、色々機能のテストをしましょう?」
「あ……あ……あ……あ……」
「あら? どうしたのミカヅキ?」
周囲をくるくる見渡して。ほぼ完成状態の三階建ての店舗兼住宅です。
床は一枚のタイル張りみたいにつるつるぴかぴか。床の排水溝に勝手に落ちる様に、僅かな傾斜を付けました。頑張りました。
壁も天井も無機質な茶一色。土の色ね。後でもうちょっと明るい雰囲気にしましょう。
作業台は、奮発して高密度の大理石の一枚岩に。頑張りました。
天井には、クレーンを吊るす為のレールを。後で滑車と鎖とフックを用意しなきゃだわ。
あっ、水場に水がじゃぼじゃぼ流れ出始めちゃいました。蛇口が必要ですね、蛇だけに。
私とミカヅキは、頭を抱えちゃいました。
「あ~、まだまだ全然だわ~」
「あんまりだーーーーー!!」
「へ?」
何でミカヅキ、怒ってるの?
「あんまりで御座る! あんまりで御座るよ!!」
「ど、どうしたのよ、いきなり?」
私は目をぱちくり。ミカヅキは目を真っ赤にしてうるうるるん。
「こんなに簡単に出来るなら、それがしの巣穴もぱぱぱっと綺麗に整えてくれても良い物では御座らぬか!? 何で何で何で~ぇ!?」
「え~? そっち?」
「そっちもどっちもこっちも御座らん! こんなに綺麗な住処だったら、先生ももしかしたら出て行かなかったかも知れないで御座るよお!!」
「あ~……でも、私たち再会したのって、ごく最近だよ?」
私、苦笑い。だって、再会したらこの子、すっかり変わっちゃってたんだもん。
「うぐ……」
「その先生って、いつ頃知り合ったの?」
「ぐぐぐ……」
「ぐうの音も出ない?」
「ふ、二つ前の秋に……」
「ほほ~~~う。詳しく……」
「え……?」
私、尻尾で床をぺしぺし叩き始めます。さあ。さあ。さあさあさあ!
「ほらほら。詳しく聞かせて貰おうじゃないの? あなたがここに来た理由って、その先生を探しに来たんでしょう!?」
もしかして、私って、とっても邪悪な顔してたかしら?
お顔を、息がかかる位に近付けて、あわあわ揺れる姉妹の瞳、覗いちゃいます!
だって、私、気になるんですもの!
「何なら、力になって上げられない事も無いのよ~?」
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