第30話『ラミア、大いに苦悩す』


 心配そうに、二尾が私を見下ろします。


「ど~したの?」

「如何なされた、シュルル姉?」


 私、思わずその場に屈み込んで、両手で顔を押さえちゃいました。

 うつってる!? 何か変なの、うつってる!?

 じんわり、掌に汗が。

 確かにあのキラキラさんのオーラパワーは半端無いもの。それを昨日、今日、二度も! しかも今日は至近距離で浴びちゃったものだから、何か悪いものが感染しててもおかしく無いわ!


 ぞわり。

 背後にあの男の気配を、居る筈が無いのに、耳元で何か囁かれたそんな錯覚を。


「はっ!?」


 震える指先で左肩を。その爪先で、カリと冷たいコインを掻いたわ、


 やっぱり、これはマーキングの一種では!?


「大丈夫ですか? シュルルさん」


 ああ、優しいハルくんも、膝を曲げて私の様子を心配してくれてる。嬉しい!


「だいじょ~ぶ。お姉は、昨夜からこんな感じで~。きっと旦那さんが恋しいのよ~」

「あっ……確かに、昨夜から様子がおかしかったで御座る!」


 おうふ!? 二尾とも、何を好き勝手言ってくれちゃってるのよ~!!

 まずいわ! 何でか心臓がばくばく言ってるけど、このままにしておくと私の立場が!


 すっくと立ち上がると、すまし顔を。ここは演技で乗り切るの!


「すいません。ちょっと立ち眩みがしてしまいましわ。おほほほほ」

「今日はあちこち見て回ったからお疲れになったのですよ。さあ、日陰に座って」


 ここは淑女らしく、しゃなりとお辞儀をして見せます。どう、ジャスミン? あなたに、こんな仕草が出来て? ふふ~ん。


「御親切にありがとうございます。でも大丈夫ですわ。先にお支払いを済ませてしまいましょう。宜しくて?」

「本当に大丈夫ですか?」


 ハルくんが心配そうに私の顔をじっと見てくるので、私も落ち着いた雰囲気を。


「それでは、お預かりしてるこの土地の権利書とお金を交換となります。登記登録、前の持ち主へのお支払い等はこちらで処理させて戴きます。後日、もう一度ご報告にお伺い致しますが、それで宜しいでしょうか?」

「構いませんわ」


 頷くと、私は荷馬車の中へと戻ります。

 そして底板の隠し扉を開けて、中から油紙で包んだ金貨を取り出しました。慎重に、音を発てない様に。

 金貨は五十枚ずつ包んであります。その束が十九。あと一つ、胸の間に押し込めて封を戻します。

 それを御者台の座席へ並べると。


「お待たせしました。先ずは、枚数をお改め下さい」

「はい。では失礼して……」


 ハルくんは丁寧に油紙を一枚一枚開けて、金貨をチェックしていきます。

 金貨と一口に言っても、質の良い物から悪い物まで色々あるんですよ。

 悪い物は、多少割り引いて判断されるのが普通なんですね。

 大体は銀を混ぜて、金の量をごまかしてる物が多いのですが、中には金を削ったりして重さをちょとまかした物なんかもあって、そういう形が歪だったり、重さが足りなかったりする物も、レートが低く扱われます。


 ま、私はそういうのを掴まされるドジなんてしませんから。

 私そんな失敗、滅多にしませんもの。


 ハルくんが金貨の査定をしている間、私も新しく創設するギルドの草案をまとめておかなきゃだわ。ギルドとして認可が降りなければ、意味ないからね。


 先ず第一には、私たちの姉妹が獲った肉を食べて貰う事で商売を成り立たせるのよね~。

 だからお肉の仕入れは肉屋ギルドを一切介さない。そこで軋轢が産むかもだけど、新しいギルドに街のしきたりなんか関係ないわ。文句を言って来たら、そこで交渉すれば良いだけの事。うまくまとまるかは、別だけど……


 第二に、付加価値。

 ただ売るだけじゃ、普通よね?


 そこで、ふと昨夜拾ったおっちゃんの事が思い浮かびました。

 身体を壊して飲んだくれ、死を待つだけだった人。

 さっきのちびっこたちもガリガリの、明かに食べて無い栄養不足。


 あーいう、血の不味いのをカイゼン出来るギルド。

 お肉を食べて、健康になりましょう~! って言うのはどうかしら?


『肉食を通じて、健康な身体を維持する事を目的とするギルド』


「肉食健康推進ギルド……略して『肉食健』! おおお~……」

「シュルル姉~?」

「どうしたで御座る?」


 私が目を見開いて、自分って天才じゃないかと、余りの自画自賛にその身を震わせていると、二尾に変な顔をされちゃった。てへぺろ~。


「新しいギルドの名前が決まったわ! 肉食健康推進ギルド! 略して肉食健ギルド! もっと略すと『にっけん』!!」

「「にっけん?」」


 何て不思議な響きでしょう!


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