第15話『コイントリック』


 熊をも殺す、私の魔法のスリングが撃ち負ける!


 あのコインは明らかに大きいわ。普通のコインの数倍はあると思うの。

 国同士のやり取りに、一枚で金貨十枚分とか二十枚分の価値がある大金貨を使うって。遺跡で見つかるコインに、あんな大きさのコインが確かにあったわ。

 でも、大ミスリル銀貨!?

 一体、幾らの価値があるのかしら?

 金貨の上って言ったら白金貨くらいしか思い浮かばない。

 それでも、大体十倍くらいの扱いだから、ミスリルだったら……それも大銀貨。ちょっと想像もつかないわね。


「良いかい? 行くよ……」


 銭キチさんは、その大銀貨を指先で器用に転がして見せる。

 まるで流れる様な、なめらかな動き。キラキラと光を放ちまるで吸い込まれる様。明らかに魔的な魅力を放っていたわ。

 次には、それが二枚に、そして三枚、四枚に増え、彼の右手の先には四枚の大銀貨が煌めいて。


 それは見ているだけでぞぞぞっと悪寒が走る光景。

 盛り場で見れば、拍手喝さいの見事なコイントリック。でも、今は違うわ。

 彼の端正な顔が、まっ直ぐに私を見据えている。

 さっきまでの、穏やかな微笑みとは違う、狙い澄ました狩人の顔。


 そして、次には彼の手からコインが消えた。

 真っ白い掌が、こちらに開かれているのみ。

 投げてはいない。そんな仕草は微塵も無かったわ!


 奇術師が注目を集める時は!


「く、来る! 奴の……」


 わーっ、後ろでデカハナさんが五月蠅い! そんな事、判ってるわよっ!


 スローモーな動き。左右に腕を大きく広げた銭キチさんは、まるで恭しくお辞儀をする様に身を屈めながら一回り。

 その動作の終わりに、スナップを利かせた投てきが!


 光の筋は、カーブがかってブリンク! でも、これくらい!


 飛来する煌めくコインの輝きに違和感を。けれど、合わせるしか無いじゃない!?


 ぱあああーーーーーんんんん!!!


 飛んで来るコインは一瞬、一枚に見えた。

 だけど、だけど……


「う……くあ……」


 左肩から身体の奥底へかけて稲妻が走ったかの衝撃に、私はもんどりうってその場に崩れ落ちてしまった。

 まるで力が入らない。

 ずるずると砂丘を滑り降り、やや砂が湿った葦の群生で止まった


 何が?

 当たったのだろうって事は判るわ。

 でも、確かに撃ち返した筈なのに……


 脂汗がどっと全身から流れ、苦痛に震える。それに堪え、薄目を開けて痛みの原因を、肩に受けた傷を見ようと……


 そこには一枚の大きなコインが、肩に喰い込んでいたわ。

 まるで闇の様に、黒いコインが。


 すると、銭キチさんは、帰って来た光るコインを受け止め、静かに告げたの。


「これは、見せ金。そしてそいつは、裏金さ」


 キラーン。

 コインの輝きと共に、銭キチさんの歯が白く光ります。

 も~っ、それって一体、何のエフェクトなの!?


 苦しい息の中、何かを言い返してやりたいけれど、口から漏れるのは声にもならない呻きばかり。

 そんな私に、追い打ちをかける存在が!


「おおっ! 仕留めやがったな!? どれ、非番はこっから先はすっこんでろ!! これからは、俺の仕事だっ!!」


 デカハナさんが、ひゃっはーしながら砂丘を駆け降りて来るじゃありませんか!?

 あわわわわわわわ~。

 身震いする戦慄が!!

 に、逃げなくちゃ!! 這ってでもって、普段から這ってるけど、逃げなくっちゃ!!


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