第14話『荒海の大ミスリル銀貨』


 く、来る!


 ぱあああーーーーーんんんん!!!


 私へとまっ直ぐに放たれた、光の筋が派手に四散し、キラキラと吹き流れた。

 違う。

 四散したのは、私の投じたブリット。魔力で強化された、ただの石つぶて。キラキラは、衝突のエネルギーで、赤く熱せられたからだわ。


 その証拠に、光の筋が一条、銭キチさんの手の中へと吸い込まれた。

 白銀の輝き。


「へえ~……今のを防ぐんだ。俄然、君に興味が沸くね」


 この潮風が吹きすさぶ中、その声は涼やかに私の元へと届きます。それもそうでしょう。彼の発するものを、喜んで伝えて来る精霊たちの歓喜がそうさせるの。

 多分、銭キチさんは世界に愛されている。その愛を当然と受け止めている。それはあまりにも、普通の者たちにとって残酷な愛。


 そして、銭キチさんは、実に愉快そうにその大きな銀貨を掲げ持ち、ちゅっと唇を重ねます。

 月光の下、それはまるで美しい白銀の像みたい。それがまた、何とも優し気な、魅力的な笑みを浮かべるじゃありませんか!? 私に向けて!


「心、踊るという事、さっ!」


 きゃ~、踊らなくて良いですぅ~っ!!


 私の背後でハッと息を呑み、バタバタと身を翻す気配が。

 そして、嫌が応にも私へと放たれた銀の光!


 狙いが正確なだけに、分かり易い!


 ぱあああーーーーーんんんん!!!


 またも砕け散る石の欠片。

 鉛弾でも用意しておけば良かったわ! 鉛なら、あのコインに食い込んでくれたかも。自分が、にちゃあってなって。

 それとも溶解して四散しちゃうかな?

 それはそれで、ぞっとするわね。


 この調子で投げ合ってると、確実にこっちが弾切れになるわ。

 何とかしなくっちゃ。何とか……

 嫌な汗が脇を。ホント、いやんだわ!


 ほら来た!


 ぱあああーーーーーんんんん!!!


 でもでも、空中で飛んで来るコインを打ち返せるのって、結構凄い事だと思わない?

 私って凄い!

 良くやった!

 私、頑張れ!

 頑張れ!

 うわあああ、弾があと二発しか無いよう!


 すると、銭キチさんたら、またも戻って来たコインに口づけして、微笑みながらこう言うのです。


「そろそろ、終わりにしてあげよう。人をいたぶるのは、僕の趣味じゃ無いからね」


 終わり。くう~、何て甘美な響きなの!?

 ああ、この人が同じ種族だったら、全部話てお仕舞いに出来るんだけど、二本足と一本尻尾はどうなの? どうなの? 無理? やっぱり無理よね!?


 何しろ飛んで来るコインをスリングで打ち返すだけで精一杯。

 隙を見て、海に飛び込むなんて、それこそこっちが鳩射ち並に簡単じゃない?

 だって、彼が狙いを外す事なんて、絶対に無いんだから!


 そんな私の思考が読めたのか、私の返答を待つかの様に、とうとうと語り出しちゃった。


「このコインはね、僕が産まれた時に握っていたって代物なんだ。魔法のミスリル銀貨さ。不思議だろう? そう、これはとっても凄いんだ。どこにどんな風に投げても、必ず当たる。そして必ず僕の元に戻って来る。だからさ、僕から逃げようなんて考えは、きれいさっぱり捨てる事をお勧めするよ。ちゅっ♪」


 そして、もう一度、コインに口づけを。


 これって、彼の優しさなの?

 降伏勧告って事かしら?

 それとも偽りの……

 本音で語ると、降参したいんですけれど、こちらは人族にとってはただのモンスター。ばれたら、即、死っ!


 逃げなくっちゃ! 何が何でも、私、逃げなくっちゃ!!


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