第10話『ちょいと待っておくんなまし』
わ……
わわわ……
あわわわわわ!
私の目の前で、デカハナさん。その凶悪なお顔を更に陰影深く歪ませ、おっちゃんの上に屈み込んじゃいます!
あんな人の手首ほども太い、木の杭を心臓に!? 死んじゃう! おっちゃん死んじゃう!!
私、思わずはっしとその手を掴みました。
飛び出して、掴んじゃいました!
デカハナさんの、杭を持つ左腕の手首と、ハンマーを振り上げたその右手首を。
「うん? 誰だ? 冗談はよせ」
もの凄い鼻息が、ぶふうって顔に当たって、妙に生臭いし蒸し暑いです。
私、目を閉じたいのを我慢して、もの凄く近くにデカハナさんの鼻を見てるんです!
周りの兵士たちは、何が起こってるのか判らなくて、みんなきょとんと。
だって、私透明化の魔法で姿を消してますからね。
ふふふ。デカハナさん、オークロードの割に、力がありませんね。こんなに非力なオークロードは初めてですよ。
私の腕の中で、抵抗するものだから、力でねじ伏せちゃいますよ~。
所詮、二本足の種族はこんなものですね。
「何か……何か居るぞ!!」
そうそう。ゆっくり立ち上がって、おっちゃんから離れて下さいね。
私、力任せにデカハナさんを立たせにかかります。
デカハナさんは、右腕を振り上げた姿勢で、じりじりと腰を上げて行きます。
いやあ、でもこれからどうしましょう。
まさかのノープランです!
「ひ!?」
にちゃあ。ほっぺにデカハナさんが湿った鼻を押し付けたんで、びっくりして思わず声を漏らしちゃいました!
普通、ちびりますよね!?
「ぶふう~……この匂い、覚えたぞ!」
あひゃあ!?
何か凄くイヤらしい!
全身、ぞくぞくっと蛇肌が走ります! 鱗がピーン! です!
ふわあ、急に力が抜けてぐいっと押されちゃって、お鼻がびっちゃり私のほっぺたに張り付いて離れません!
ど、ど、どうして!?
力は全然こっちが上の筈なのにぃ~!
カラン、コロコロと杭とハンマーが石畳に転がって、乾いた音を発てました。
デカハナさん、両の手をわしゃわしゃさせて、私の手首を掴み返そうと!
わわわわぁぁぁぁぁ~~~~!!!? もう駄目ぇぇぇぇぇ!!!
「こ、この人は吸血鬼に噛まれたんじゃ無いわ!! もっと、良く調べて下さい~!!」
我慢できずに思いっきり叫んでやったわ。
もう、鼻を乙女の顔に、にちゃにちゃ押し付けちゃって!
し、し、失礼しちゃうわ!!
ど、ど、ど、ど、どうしよう~。
「女か!!?」
くわっと目ん玉をひんむいた様に私を、私の居る辺りを凝視する、その目が怖くて思わず硬直しちゃいました。
おかしいわ。
おかしいのよ!
だって、ダンジョンで邪悪な冒険者に襲われて、どんな凶悪な顔で迫られても、怖いなんて思った事無かったし、圧倒的に私の方が強い筈なのに!
素手だって、ここに居る連中が束になってかかって来ても負ける気がしない。
脚はとろいし、力も弱い。攻撃だって、当たらなければどうって事ないものね。
そういうのって、長年の勘で判るんです。
レベルの差って奴?
「女ぁ~、姿を現せぇ~……ぐへへへへへ……」
うわああ、こいつヤバい奴だ。オークロードってとこで、もうヤバさ数倍増し増しなんだけど、どんなレアスキル持ちか判ったものじゃないし、普通に好色だわ!
逃げなきゃ!!
ぴ~、されちゃう!!
身の危険を、違った意味でビシバシ感じました。ヤバいですね。
周りの兵士たちも、ようやく事態を把握したのか、じりじりにじりよって来ます。
ああ、神様……
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