第8話『オーク鬼!? いいえ、こいつはオークロードさん!!?』
カチャカチャ、しゃらんしゃらん、カラカラと鎧や武具がかち鳴らす響きと、人族の走る気配が、大きく揺れる光源と共にこの暗い裏路地に雪崩込んで来ました。
揃いの武器防具に外套衣。
長い影が踊る様です。
如何にも街の兵士ですと言った連中が、わたわたスローモーに走り込んで来るのを、私はじっと息を潜めて見守っていました。
すると、その兵士の一人がおっちゃんを発見。声を荒げるのです。
「た、た、団長!!」
「こ、これは!!?」
「酷い……血まみれじゃないか……」
たちまちカンテラの明かりに虫が群がる様、街の兵士たちはおっちゃんを覗き込みます。
「死んでるか!?」
「いや……生きている……な……」
ガシャン! ガシャン! 路地の向こうから、ひと際大きな影が、左右に身体を揺らしながらゆっくりと近付いて来ます。
その尊大な素振りから、きっとこの人が団長さんなのでしょう。
ちょっと、ぞわりとしちゃいました。ヤバイですね?
ブフウ……
大きなお鼻の隊長さんだあ……
ええ!? オーク!? 何でオーク鬼が!? え!? 団長!? もしかして、もしかしなくても、これって、オークロード!!?
私の頭、めっちゃ混乱。
だってだって、この街って人族の街だよ! オーク鬼って敵対種族の筈なんだもん!
カンテラの明かりにどす黒く浮かび上がったのは、大きなお鼻をしたそれは醜い大男でした。それが、他の兵士とは明らかに違う、いかにもお値段の張りそうな全金属板鎧を着込んでいて、フェイスで隠しきれないその巨大な鼻を大きく吹き鳴らします。
「ふむ……この匂い。血が乾いて数時間か……だが、解せぬ……」
唸る様な響きが、その下にある大きな口から漏れ出ました。
そして、幾度も小さく鼻を鳴らすのです。
明らかに、その眼光は周囲の暗がりを探っている様で。
「ぐふう……解せんなあ……」
にちゃり。嫌らしい笑みを浮かべるので、またもぞくっとしちゃいました。
「団長殿! この者はどう致しましょう!?」
そうそう。優しく保護してあげてね!
私が内心、そう思っていると。
「ぶふう……白木の杭を!!」
えええええええええええええええええええええええええ!!?
私は勿論、声なんて挙げられないので、目を大きく見開いちゃいました。びっくりです。
そして、兵士の一人が声高に叫びます。あおあわあわわわ。
「新人!!」
「あ、は、はいっ!! ふ、ふわああ!?」
すると、少し後ろに居た一人の兵士が、慌てて駆け寄って来て、すってん。それは見事に足をもつれさせて転びました。あ、なんかこの子、好感持てますね♪
「何やっとるか、新人!!?」
「ふあ…す、すいません!!」
ごつんと頭を叩かれた、如何にもまだ若い兵士は、背嚢を下ろし、中から白い木製の杭を恐る恐るに取り出しました。
吸血鬼と言えば、止めに心臓に白木の杭を打ち込むと言います。
え!? でも、まだその人、普通の人だし!
すると、その新人さんは、杭を手にしながらも呆然とした表情を浮かべているじゃないですか?
「あ、ああ、あの!」
「何だ!!?」
その子を新人呼ばわりする兵士は、如何にも古参のって感じのおじさんです。
「ええい! 呼ばれたらさっさと渡せ!! このバカ!!」
「え……うあっ!? だって、だってその人、まだ生きてるじゃないですか……」
またも古参の兵士にぽかりと頭を殴られ、杭を奪われてしまいました。
そして、その団長さんとやらが、あの人間ばなれした巨大なお鼻を嗅ぎ鳴らしながら、ぶふうと言うのです。
「小僧。兵士というものはな、言われた通りに動けば良い。それが出来ない無能は、俺の騎士団にはいらん! 追放だ!!」
「えっ!?」
からんからんと、少年兵の手に持つ背嚢から、大きな木の杭が何本も石畳に落ちて、乾いた音を発てます。それが、この細い路地に、否応が無く大きく大きく反響するのでした。
私、見ちゃいました。
人が追放される瞬間を。
オークロード?は、なんと騎士団の団長さんだったみたいです。その夜回りに新人さんが連れ出されてたって事かしら?
その場にへたり込んだ、その子は、全身をおののかせながら震える手を、団長さんの外套に伸ばしました。でも、それはあっさり跳ね除けられてしまったの。
「ふん……」
すると兵士がその子の肩に手を。
慰めてあげるのかと思ったら。
「さっさと脱げ! もうお前には必要ない物だ」
その場で兵装を奪われてしまうじゃないですか!?
見ているだけで可愛そう。思わず飛び出して、ぎゅっとしてあげたくなっちゃう。でも、我慢しなくちゃ。
まるで悲劇のワンシーンみたい。
悲しくなっちゃって、目頭がじんわり熱くなっちゃったよ~。
すると、ふわり、ちょっと不思議な気配がしました。あれれ? 何でしょう?
「じゃあ、その子。うちで貰っちゃって良いんだね?」
唐突に、路地の向こうから、また若い雰囲気の、男の明るい声が響いたのです。
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