エピローグ

 夏休みが終わった。


 あれから想弥はいつも通り過ごしていた。


 だが、清祈のことを忘れたわけじゃない。


(本当に、ずるい女だよ。わざわざホーム画面じゃなくてロック画面って指定する辺り、深い意味を感じたな)


 スマホを開くといつも清祈が目に入る。そのため、連鎖的に海以外での記憶も蘇るのだ。


(夏祭り、離別、初めてあった日。……わざわざロック画面にしなくても、思い出せるのにな)


 そっとスマホを閉じて、玄関を開ける。


「想弥、もう行くのか?」


 声を掛けてきたのは蒼月だ。清祈の件以来険悪なムードになるかと思いきや、そうでもなかった。


 蒼月は想弥に施していた何かを解き、清祈との記憶を完全に復活させた。蒼月曰く、


『記憶封印は強い外的影響を利用したものだ。だから割と簡単に解ける』


 とのことらしい。結局詳細は教えてもらえなかったのだが。


「ああ。今日はちょっと帰り遅くなる」


「了解。気をつけろよ」


 そして、分岐路で蓮と合流した。


「はよー、想弥」


「はよ、蓮。眠そうだけどまだ夏休み気分なのか?」


「誰だってそうだろー。切り替えられてる想弥がヤバいんだって」


 暫く雑談をしながら学校へ向かう。途中、スマホに通知が来たためロック画面を再び開く。何も知らない蓮は、案の定想弥のロック画面にツッコミを入れてきた。


「誰だよその美少女! 仲良さそうじゃん!」


「そんなんじゃねぇよ。こいつ、この写真ずっとロック画面にしてろって言ってくるような奴だぜ?」


「羨ましい~! ずっとロック画面にしていい許可くれるって、めっちゃいい奴じゃねぇか!」


「――そんなもんじゃねぇよ。オレからしたら一種の愛情呪いだよ」


「……ふぅん?」


 他人にどう思われようと、想弥の考えは変わらない。


 清祈があの時言った願いは想弥にとって呪いのようなものだし、ある種の愛でもある。どう足掻いても消せやしない。消せるわけがない。


 だから想弥は、それを抱えていかなければならないのだ。


 今度こそ、忘れないように。


 ――今度こそ、清祈を消さないように。

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星が消えゆく7日間 月影エリナ @Erina1217

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