7日目-3話

「あ、れ? 清祈? お前、身体が」


「……あぁ、もう、時間なんだ」


 清祈の身体が透け始める。心なしか、気配まで薄くなっているような。


「時間って、まさか!」


「そう、そのまさか。私はもう成仏する頃合いみたいだね。それもこれも、蒼月さんのせいかな。あの人が想弥に全てを教えて、私の未練は無くなった。だから――」


「待て! 未練だかなんだかわかんねぇけど、やっと記憶できるようになったはずなんだよ! だってのに、もう……!」


(――あぁ、泣いてくれてるんだ、想弥。私のことで)


 今までずっと、思ってた。


 想弥はいつも、何も言わずに自分の元からいなくなる。


 想弥はいつも、自分のことに無関心だ。


 だから、願った。


 たった一度でもいいから。どうか、自分のことで心を乱してくれないか、と。


(不謹慎な願いが、こんな形で叶うことになるなんてね)


 ここまで来たら、せめて悔いがないようにしたい。


「私が消えるのは仕方ないよ。ただ、一つだけお願いがあるの」


「なんだ? 遺言でも何でも聞いてやる。別に辛い物だって構わない。お前のことならいくらでも覚えといてやる。だからっ‼ ‼」


(あーあ、声が震えちゃってる。早口にもなってるし。……ここでこれを言うのはちょっと、可哀そうかなぁ)


「――私のこと、永遠に忘れないようにしてほしい。でも、綺麗な思い出になんてしてほしくない。毎日魘されるほど、強く記憶に焼き付けてほしい。だから、ロック画面に設定してある写真は変えないで。私のこと、忘れさせてやらないんだから」


 我ながら、呆れるほどに強欲だ。こんな条件、もはや呪いと同じじゃないか。


 それでも、彼には忘れないでいてほしい。久遠清祈という存在を、どうか。


(もう二度と、忘れないでほしい)


「清祈、オレは……お前の、ことが」


「ごめんね、想弥。もうタイムオーバー」


「待て、頼む、待ってくれ‼」


「……うん、楽しかった。最期にとても綺麗な思い出ができて、満足だよ」


 ――ありがとう。


「清祈ッ‼」


 手を伸ばしても、空を切る。


 ――もう、清祈はどこにもいないのだ。


 虚空感に襲われ、へたり込む。


 もう誰もいない場所に、嗚咽が響く。頬に生暖かいものが流れていく。


「どうしてっ、どうしてオレは何も言えないまま……‼」


 ――その日はとても、星が綺麗だった。

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