6日目-2話
沈黙が訪れる。電話越しでもわかるぐらいに緊迫した空気が流れている。
口火を切ったのは蒼月だった。
「どこでその名前を知ったんだ? 普通、知るような場面なんてないはずだが」
「っ……家の家系図を調べてる時に」
「あぁ、嘘はいいんだよ。俺が知りたいのは真実。どうやって想弥が久遠家に辿り着いたのか、だからな」
(それはこっちの台詞だ!)
見事に思想が交錯している。このままだと平行線だ。
そう思った想弥は切り込むことにした。
「正直に言うと、会ったんだよ。清祈に」
「どこで?」
「大月神社で。んで、清祈が『自分がここの神だから想弥のことを知ってる』とか言ってたけど、それにしては違和感があった。だから離れの蔵漁ってまで調べたんだが……まさか、パンドラの箱並みの事実を知ることになるとはな」
「ふぅん? よくそこまで調べたな。それで、結局何が聞きたいんだ?」
その問いに対する答えはひどく端的なものだった。
「全部。清祈に対することと、本宮家に関すること」
「……分かった。お前がそれを望むなら話すよ。そも、今まで話してなかった俺にも非があるからな」
そう言って、蒼月は本宮家の歴史を語り始める。
「この家の当主を継ぐ条件が特殊なのは知ってるな? その条件は宮倉市に繁栄を齎せるか否か、だ。だから当主候補はいつも頭を悩ませてるんだが……この話は別にいいか。で、俺が考えたのは死者の記憶を、対象が最も大切に思っていた者から消すこと。非人道的だが、その方が人は前を向けるし、少しは繁栄するだろう? ――だから、被検体として想弥を利用した」
「――は? 今、なんて」
「想弥を利用したんだよ。清祈が死んで、想弥はいつも陰鬱な気持ちで過ごしてた。だから当初の予定を変更してお前で実験したんだよ。そしたら結果は大成功だ! ……だけど、ほんの少しだけ、思ったんだ。これでいいのか、って。だから俺はその家を離れたんだ。その時、ちょっぴりお前の記憶を修復しといた。完全に思い出させたときの反動が怖かったから、うっすらと記憶することはできても完全に思い出すことはできないようにしておいたんだ」
言葉が出ない。蒼月のやったことは決して許されることではないが……
「でも、お前は自力で真実に辿り着いたんだな。それは素直に賞賛するよ。心から。……本宮家と、俺から話せる清祈に関することはこれくらいだ。あとは自分で確かめろ」
優しい声音でそう言われた。蒼月は根っからの悪人ではなかったのだろう。ただ、やり方を間違えてしまっただけで。
(本当の悪人はオレだ……兄貴に負担掛けて、清祈にも嫌な思いさせたかもしれねぇ。謝らなきゃ……!)
覚悟を決める。絶対に清祈に会って謝らねば。今までのことと、これからのこと全て。
「――ありがとな、兄貴。オレ、行ってくるよ」
「――ああ、行ってこい。想弥」
ただ、今から行くと両親に訝しまれてしまう。そのため鬱屈とした思いを抱えながら夜明けを待つことになった。
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