5日目-1話
夕刻。想弥はちゃんと鳥居の前でサキを待っていた。祭りの日だから多くの人で賑わっており、サキがちゃんと自分を見つけられるか少し心配だ。
そんなことを考えている脳に、独特な音が響き渡る。
「お待たせ〜っ! 浴衣着てきたんだけど、どうかな?」
サキだ。ちゃんと実体化して浴衣まで着ている。髪も低めのお団子ヘアとなっており、新鮮だ。
「似合ってると思うぞ。てか、一昨日の実体化とか今日の実体化とか、大丈夫なのか? 色々と」
「大丈夫でしょ、きっと。そんなことより、ほら。楽しもうよ!」
腕を引かれて、祭り会場へと流れるように足を踏み入れる。静かだった鳥居前とは違い、誰も彼もが祭りの雰囲気に浮かれている。外と隔絶されているような空間だ。
「あっ! 射的! 射的やりたい!」
「金あんのかよ」
「あるに決まってるでしょ⁉ ちゃんと繁栄してるんだから!」
(ここの神とは言え賽銭から盗ってきたのか……)
想弥が頭を悩ませていることは露知らず、サキは射的へと向かっていく。
与えられた弾は三つ。ターゲットはゆるキャラのぬいぐるみ。
――標準を定め、構えて――
「あーっ! 全っ然ダメ! 全く落ちる気配がない!」
三発全てを無駄にしてしまった。そんなサキを見て哀れに思ったのか、想弥が一歩前に出る。
「もういい、オレがとってやるよ。すいません、一回お願いします」
「無茶だよ! いくらなんでもあれを三発で撃ち落とすのは……!」
サキの警告を無視してターゲットに狙いを定める。ただし、決定的に違ったのは
「ターゲットを漠然と狙うんじゃなくて、墜としやすいところを探してる――⁉」
その実、想弥は頭の中で高速演算を行っていた。あのぬいぐるみを撃ち落とすための最適解はどこなのか。重心が偏っている場所は? 逆に倒れにくい場所は? 弾を詰めて上手いこと空圧を最大限に加えるには?
それらを加味して、狙撃した結果――
「やったー! ちゃんと取れた! すごい! ありがとー!」
なんと見事に三発で墜とすことに成功したのだ。これには店主も唖然としており、勝ち誇った感が押し寄せてくる。
「すごいよ想弥! たった三発で墜とすなんて!」
「あんなの考えればすぐだろうが。それより、次はどこ行きたいんだ?」
「んー……チョコバナナ食べてたこ焼き食べたい! あとりんご飴も!」
「食い物ばっかじゃねぇか! しかも甘いものの後にしょっぱいのとかこいつ全て理解してやがる!」
カミサマの癖に人の欲求についての理解が深い。それに、どこか人間臭さがある。
(こいつ、本当に神なのか……? ――いや、本人は最初神みたいなものだって言ってたっけ。いやでも、あれは説明のための便宜上?)
考えれば考えるほどわからなくなっていく。結局サキは何なんだ? いや、そもそも、前提として。
――どうして自分のことを知っていた?
思えば、あの時からサキは嘘をついていたのかもしれない。ここの神みたいなものだ。だから想弥のことを知っている。そう言っていた。だが、彼女が神ではないとすると全てが瓦解する。
(はぁ……考えることが増えちまった。けどまぁ、今は別にいいか)
障害から目を遠ざけ、優しい時間に入り浸る。悪癖だが、今はそうすることしか出来ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます