3日目-2話

「わーっ、本物の海だ!」


 道中何事もなく目的地まで辿り着いた。


 事件が起きなかったことに関しては安心しているのだが、不可解な点が一つ。


「さっきまでお前の姿が見えなかったけど、どこにいたんだ?」


「あれのこと? ただ単に、誰の目にも見えないように姿を消してただけだよ。想弥みたいに私の姿が見える人ってあんまりいないけど、もし一人でもいたら面倒だからね」


「理屈は分かったけど、んな無茶苦茶な」


 もうサキの思いのままといっても過言ではない。どこまで自由人なのだろうか。


「にしてもホント、綺麗だな……」


「そうだねぇ。――少しだけ、昔に戻ったみたい」


「何か言ったか?」


「ううん、こっちの話。それにしても、夕焼けと海ってすごい合うよね」


 サキの言った通り、夕焼けが反射してただの青色から淡い橙色へと変色している。正直、とても綺麗だという言葉以外何も思いつかない。


「――ねぇ、ここで写真撮ってよ」


「え」


「まーた硬直してる。どうせ撮ったところで私が写るかどうか気にしてるんでしょ? そこは問題ないよ。実体化してるんだから」


「的確にオレの思考読み取るなよ……」


 もはや驚きを通り越して呆れてくる。どうして初対面に近いはずの男の心を完璧に読み取れるのやら。


 鞄の中からスマホを取り出し、カメラを起動させる。


「それじゃ撮るぞ。三、二、一」


 誰もいない黄昏の海辺にシャッター音が鳴り響く。彼の眼前に映ったのは橙色の海と、とても純麗で儚げな彼女で。


「どう? 上手く撮れた?」


「――あぁ。すごく、綺麗だよ」


 予想していなかった言葉をかけられて、サキは一瞬だけ目を見開く。そして。


「本当に、いつも欲しかった言葉をかけてくるんだから。そっちの方が呆れちゃうわよ」


 想弥の耳に入らないよう、そっと呟く。どうやら撮った写真を確認していたようだ。


「ふふーん、感謝しなさいよ。カミサマの写真がスマホに入ったんだから。お守りとして、せめて削除しないように。もっと言うと、ロック画面に設定するように」


「いきなり態度でかくなりすぎだろ。てか、お前の写真なんて設定したら呪われ……痛い痛い痛い! わかった、分かったよ! 設定するし消さねぇよ!」


(なーんて言いつつ、本当は私が殴る前から設定しようとしてたっぽいよね~)


 微笑みながら、想弥が慌てる様子を見つめる。


 この時。確かに想弥とサキの距離は縮まったのだ。だから――

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