3日目-1話

 翌日。想弥は再びサキのいる神社に足を運んでいた。無意識のうちにそうしていたのかもしれない。


 ただ、サキは不確定要素を孕んだ感じで話していた。そのため確実に会えるかは不明だが……


(なんとなく、会える気はする)


 謎の自信を抱えながら本殿の奥へと向かう。未だに背徳感が残るが、それを押しのけると昨日と変わらぬ景色が眼前を覆い尽くす。


 もちろん、昨日の少女もそこにいて――


「やっぱり、ここに来たんだ」


「そういうお前も、ここにいたんだな。昨日は曖昧な返事してたくせに」


「べっつに〜。私がいないとは一言も言ってないし~?」


「ぐ……」


 正論だ。サキは一言も「自分がここを離れる可能性がある」とは言っていない。想弥はそこを勘違いしていたのだ。


「ところで、なんで今日もここに来たの? キミがわざわざここに来る理由が見当たらないんだけど」


「暇なんだよ、家にいても。かと言って何かやることがあるわけでもねぇし。だから来た」


「この辺の人たちにバレるかもしれないリスクを背負ってまで?」


「……そうだよ」


 その一言により、サキは目を見開く。しばしの沈黙が流れたが、先にそれを破ったのはサキの方だった。


「ふっ……あっははははは! おっかし〜! やることが無いから私に会いに来るって……あははっ! どれだけ暇なのっ!」


 抱腹絶倒。息が切れるほど笑ったあとようやく元の体勢に戻り、想弥との会話を再開させた。サキが笑っている間、想弥はずっと呆れたような目で彼女を見つめていた。


「あのなぁ、そんなに笑うことかよ」


「だって、ここに来るのを他人に見られてたかもしれないのに……あっはは! やっぱダメ、ツボに入っちゃう!」


 最終的に肩で息をしているサキ。どれだけツボが浅いのやら。挙句の果てには涙まで浮かんできている。


「はーっ、はーっ……それで、どうするの? 行きたい場所とかあるの?」


 目尻に留まっている涙を指で押さえながら問いかける。それは、もちろん想弥にとっては流れ弾のようなもので――


「……」


 絶句した。双方、いろんな意味で。


 そもそも想弥はサキがこの神社から離れられることを知らなかったし、サキはといえばどれだけ無計画という概念を濃縮した存在なのかと思っていた。


 結果、お互いに報連相不足だったため、混乱がもたらされてしまったのだ。


「え、サキってこの神社から移動することできたのか?」


「できるに決まってるでしょ⁉ カミサマ舐めてんの⁉」


「そういうわけじゃねぇよ! 神ってことは規定された土地から移動できないもんじゃねぇのかよ!」


「なんでそんな発想になるわけ⁉ ニートじゃないのよ!」


「あーもうわかったよ! オレが悪かったよ!」


 あのまま口論を続けているととんでもないことになると悟ったのか、自ら折れた想弥。本題に戻ろうとするが、行きたい場所が思いつかない。


「サキは行きたいとことかあるか?」


「んー……じゃあ、海がいい!」


 まさかの海。今の季節は夏だから問題はない、のだが……


「お前の姿が他人に見えないとしたら、オレはただの黄昏れてるやつになるんだが」


「あぁ、そこは大丈夫。私の体、実体化することもできるから」


「は?」


「想弥がこの神社のことぼろくそに言ったとき、頬つねったでしょ? で、痛かったでしょ? あれって実体化してたからなんだ。もちろん、霊力っていうのを消費するから制限はあるけど……まだ余裕はあるはずだよ」


「理屈は分かったけど、マジで行くのかよ……」


「当然! あ、もちろん私が実体化するのは海に着いてからだけだから。電車乗る時はこのまま乗るから」


「清々しいほどのお気持ち表明だな! 無賃乗車の詐欺罪で捕まっちまえ!」


 なぜ無賃乗車が詐欺として扱われるのか、詳細は不明だがとにかく一度サキは補導された方がいいと思う。


「はぁ……まあそれでもいいよ。実体化してない間は絶対オレに話しかけるなよ。いいな?」


「はーい」


 本当にわかったのか、一抹の不安を抱えながら駅へと向かった。

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