2日目-4話

「サキって、いつもここにいるのか?」


「うーん、厳密にはいつもってわけじゃないんだけど……大体そんな感じかな。本殿だと、常にたくさんの人がいるだろうから」


「そうか? 祭りとかが無い限り、あの神社はあんまり人はいな――痛い痛い痛い!」


 事実を知らなかったのか、ただ単に現実逃避をしていただけなのかは分からないが頬をつねられた。神なのに実体に干渉できるとはこれ如何に。


「事実を言っただけ」


「うるさいうるさい! 賑わってるったら賑わってるの! 想弥に見えてないだけで、実際はたくさんの参拝客がいるんだから!」


「幽霊ってことじゃん……怖ぁ……」


 どうやら是が非でも己の神社の真実を認めたくないようだ。確かに人間でも自らが所属しているグループの退廃を認めたくないのが一定数いるが、それと同じようなものなのだろうか。


「全く。言う相手が私だったからよかったけど、他の神様相手だったら絶対に今祟られてたよ」


「残念ながら、オレの家は無宗教なんでな。痛くも痒くもないんだわ、多分」


 ただ、サキが本気で本宮家を呪ったらどうなるのか興味はある。


 もしかしたら破滅の一途を辿るかもしれないが、それはこの土地の衰退をも意味するからこの神社も共倒れとなる。だからこそサキは本気で呪わないし、想弥は呪いの影響をその目で見ることが叶わない。見方を変えればウィンウィンなのだろうか。


「とにかく、もう帰ったら? そろそろ夜になるし、想弥の家ってここからちょっと遠いでしょ?」


「あぁ、そうか……それもそうだな。じゃあ、またな」


「また明日、会えればね」


 サキはそう言い残して消えてしまった。やはり実体を持っていないのだろうか。


(それに、神だって話もあながち嘘じゃないのかもな。本人はらしきものっつってたけど)


 彼女の記憶は曖昧なのだろうか。普通、自らの出自や立場は覚えているはずのものだが。


(ま、今は関係ないか)


 踵を返し、家の方へと向かう。もちろん本殿の方に人がいないことを確認してから。


 いくらなんでも、領主の家の次男が神社の本殿の奥から出てきたなんて話が出まわったら絶望的だ。下手をしたら一家追放さえあり得る。


(そう考えるとガチで恐ろしい一家に生まれてしまったな……)


 背筋が凍る感覚を抱えながら自宅に戻る。帰りが遅くなったことに関しては何の咎めもなく、無事に夜を越すことができた。


 一家団欒の時間とも思える夕食の時間だが、今の本宮家にそんなイメージはない。なんなら綺麗サッパリ払拭されている。蒼月が家出して以来、ずっとそうだ。


(この家って、蒼月に依存してる感あるんだよなぁ。オレに面倒ごとが降りかからないのはいいけど、おかげで居心地悪いというか)


 そもそも想弥が実家に帰ると決まって蒼月のことについて聞かれるのだ。なるべく兄の印象が悪くなるようなことは言わないようにしているが、それでも悪い空気になるのは避けられない。いっそ悪い噂でも流せば蒼月に対する妄念じみた感情もなくなるのだろうか?


 かと言って、今度から蒼月を連れてくるように言われても困る。蒼月は何が何でも実家に帰らないつもりだし、そんな兄を無理矢理実家に連れて行ったら本当に想弥の住む家が無くなってしまう。


(板挟みって大変だな……考えれば考えるほど胃が痛くなってくる)


 少しでも痛みを和らげるために、その日はうつ伏せになって寝た。本当に、申し訳程度にしかならなかったが効果はあった。

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