1日目-2話
家に着くと、仕事から帰った様子の兄がいた。
「ただいま、
「おう、お帰り想弥」
彼は本宮蒼月。想弥の兄であり、何故か大学三年生の時点で彼を養えるほどの財力があった男だ。
想弥の学費は両親が仕送りしてくれるものの、家賃や食費などは蒼月自身が賄っている。それも、想弥が家に来る前――つまり、高校を卒業してから新卒二年目になる今までずっと。
どう稼いでいるのかを興味本位で聞いてみたことはあるが、その時は適当にはぐらかされてしまった。怪しい仕事に手を出しているわけではないらしいからその辺の心配は必要ないみたいだが、絶賛ヒモ状態の弟からしたらかなり気になるのだ。
過去に一度、少しでも兄の負担を軽くしようとバイトに志願したら全力で阻止された記憶がある。結局理由は分からなかったが、それ以降想弥はお金に関する話題を一切持ち込まなくなった。
「先に風呂行ってくる。飯は後ででいーや」
「りょーかい。冷めないようにしとくか」
「別にどっちでもいいよ。ってかこんな暑いのに冷たくねぇ料理ってどゆこと!?」
「なんだ、冷たいのが良かったのか?」
「そりゃそうだよ! 逆になんで蒼月はこんな猛暑日にあっつい食べ物がいいんだよ!?」
「ふーん、そんなこと言っちゃうのか〜。だったら想弥だけは自分で素麺だのなんだの作るのか〜。ふーん」
「……いや、蒼月の作ったやつ食べるよ」
「うんうん、そうだよな〜。俺の作ったやつ、美味いもんな~」
そう。本人も自覚しているが、蒼月の作る料理はどれも美味しいのだ。それも、ホテルの料理人が作ったかと錯覚するようなレベルで。
大方一人暮らしをしているうちに培ったスキルなのだろうが、それにしてはレベルが高すぎる。生まれ持った素質なのだろうか。
さて、風呂からあがって想弥が目にしたメニューは――
「ラーメンじゃねぇか! 返せよさっきオレがツッコんでた時間!」
普通にラーメンだったのである。これなら暑い日でもなんら問題はない。
「はっはっは、別にいいだろう?」
「いいんだけどさ……」
どこか煮え切らないような表情でラーメンを口に運ぶ。インスタントに付属していたスープは塩レモン風味に改造されており、爽やかな香りが鼻を抜ける。
「ホント、蒼月って何やっても完璧だよな。大学の試験なんて首席でパスしたし、スポーツも勘で出来る~とか言ってたら本当に上手くいってたし」
「完璧すぎる兄を称えてもいいんだぞ?」
「ついでに言うと、彼女さえいれば本物の完璧になれただろうよ」
「それは言うな……俺も割と気にしてるんだぞ……」
和気藹々とした会話。しばしラーメンを食べ進めていると、想弥の帰省に関する話が切り出された。
「ところでさ、想弥はいつ帰省するんだ? 予定さえ合えば車で送ってってやるけど」
「ん、サンキュー。明後日ぐらいに向かおうかなって思ってる。蒼月はどうするんだ?」
「俺はいつも通りお前を送ったら帰るよ。今更帰省しても、面倒事に巻き込まれるだけだろうしな」
「ふぅん。いっつもそう言うよな。いったい何があったんだよ」
「――別に、何もないよ。お前と同じで、あの土地が嫌いだからここに来た。それだけだ」
「……あっそ」
スープに浮かんでいる薄くスライスされたレモン。再び食んでみると先程とは違い、苦味が口いっぱいに広がった。
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