星が消えゆく7日間

月影エリナ

1日目-1話

 七月十五日、世間的には夏休みに突入しようかというその時。背後から慣れ親しんだ声が聞こえた。それに対し、本宮想弥もとみやそうやは振り向きもせず。


「おーい、想弥ー! 帰ろうぜー!」


「あぁ、蓮か。ちょっと待ってろ。すぐ終わる」


 声の主は水沢蓮。想弥のクラスメイトであり、数少ない友人の一人だ。


 想弥は俗に言う陽キャでも陰キャでもない存在だ。そのため特定のグループで一日を過ごす、増してや自分と似たような友人など夢のまた夢だ。


そんな彼の高校生活に、一筋の光が舞い降りた。それが水沢蓮という人物である。


「ったく、お前っていつもなんかの作業してるよな。なんなんだ、それ」


「別に。委員長としての責務を全うしてるだけだ」


「あ、そっか。想弥って放送委員長だったよな。つってもそんな書類制作とかあるのか?」


「月一の報告書作成、近々行われる学園祭BGMのセトリ製作、当日の後夜祭をスムーズに進めるために後夜祭実行委員との提携強化・専用機材の使い方説明、そんでもってお前たちが出し物作りの途中に出たゴミの分別を放送で告知するためにあのお堅い風紀委員との提携強化も必要なんだよこの野郎」


「……なんか、ごめんな」


 一息で言い切り、ついでに生徒への恨み言も零す。蓮だけに言ってどうにかなるものでないことは承知の上だが、それでも行き場のない思いを誰かにぶつけたかったのだ。


(すまんな、蓮。オレは他に友達がいないからな)


「まぁいいや。そんなことよりさ、想弥は夏休みの間どっかに行ったりするのか?」


「実家に帰っておこうかなって。顔出しづらいけど、年に一度は行っとかないとな。ずるずる先延ばしにしたら余計帰りにくくなっちまう」


「ふーん。……あれ、お前って確かお兄さんと暮らしてんだよな」


「それがどうかしたか?」


「いや、別に。ただ、なんで家出したんだろうなーって」


「あぁ、なんだったかな。何があったんだったか――」


 蓮の言った通り、現在想弥は同じく地元を出て行った兄と暮らしている。


 想弥が地元を出て行くときに両親は猛反対したが、当時中二だった彼は両親がいない隙を見計らって夜逃げを成し遂げたのだ。


 兄の家に転がり込んだところまではいいものの、その後が大変だった。危うく両親に捜索願を出されかけたり、実家に出頭したら母にこっぴどく叱られたり。


「具体的になんで家出したかは覚えてねぇんだよな……」


「ちょっと待て、それかなり重要なんじゃねぇの⁉ そこ忘れたら今までのことが一気に瓦解するぞ⁉」


「やれやれ……いいかい、水沢クン。記憶なんてちょっとした出来事で忘れてしまうものなんだ。それこそ強い外的影響によって忘れることなんて珍しくない。それに、ショッキングなことはあんまり残しておきたくないだろ?」


「一周回ってわけわかんねぇな! いつもの想弥とは大違いだ!」


 激務で頭がおかしくなっているのだろうか。情報が微妙にまとまりきっていない気がする。


「お、そろそろ分かれ道だな。じゃ、また夏休み明けに」


「おう。またな」


 そう言い残して、蓮が歩いて行った方に背を向ける。

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