黒の皇女 その1
彼女が眠りについた丁度その時、部屋のドアがまた静かに開く。
そこから入ってきたのは三人のメイド。ただし先ほど出て行ったメイドたちではなく、彼女たちに比べて全体的に暗い印象を持ったメイドたちだった。
一人目は横長の縁無し眼鏡から見える鋭い目が特徴的な長身の女性――ヨルナ・ムーンスレイン。
二人目は右目を前髪で隠しているためか大人しい印象を持つ深みの青い長髪でハーフエルフの少女――リュリュ・マーマイディー。
そして三人目はリュリュより頭一つ分背が低く、何やら面倒臭そうな顔をしている獣人の女性――キリシア=ハウマー。
彼女たちがなぜフィリアナの寝室に入ってきたのか。それはこれから、短い時間だが世話をする方を迎えるためだ。
彼女たちが入ってきたのも束の間、眠っているフィリアナにある変化が起きた。
彼女の白く綺麗だった髪が徐々に漆黒の黒髪に変わっていった。
やがて完全に髪が黒くなった時、彼女はゆっくりと目を覚ましベッドから体を起こした。
その瞳は澄んだ青ではなく、血が染み込んだような赤に変わっていた。また、顔つきも以前のような優しい雰囲気は微塵もなく、代わりに誰にも心を許さないような険しい顔となっていた。
メイドたちは彼女に声を掛けず、ただ一礼をする。
その様子に対し彼女はただ平然と見つめ、自分から毛布を翻しベッドから出る。
メイドたちもそれを気にした様子はなく、個々の作業へと動き出した。
ヨルナはフィリアナの着替えを手伝いながら彼女に報告する。
「姫様、影の者からの情報で先月から水の王国で不穏な動きがあったようです。どうやら王族の中に氷の魔法の使い手がいたようで、内部で揉め事が起こっていたようです。そして一週間前にその王族が国王の部下とともに王国から逃げ延び、こちらの方角へ向かっているそうです」
淡々と話し終えたヨルナにフィリアナは厳かな口調で質問する。
「その王族の情報は氷の使い手だけか? 王族とともに逃げた部下の情報は?」
「……逃げた王族の名はアルフォード・エイヴァンス、第三王子。これ以上の情報は王子が表立っての活動がなかったこともあり得られませんでした。また、部下の方も数や人物が把握出来ておらず情報はありませんでした……申し訳ありません」
フィリアナは彼女の返答と謝罪には何も言わず、その後は沈黙が流れていった。
やがて着替えが終わり、フィリアナはすぐに部屋を出ようとしたが後ろから呼び止められ立ち止まる。
「姫様、陛下たちが食卓にてお待ちです。どうか執務室へは行かず、陛下たちと食事をなさっていただけませんか?」
ヨルナはそう言って他の二人とともに深く頭を下げる。
フィリアナは目を閉じてしばし逡巡していたが、やがて「分かった」とだけ小さく答えて部屋を出て行った。
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