白の皇女 その6
孤児院の人々に別れを告げ、残りの視察を終えて城に帰る頃には空は橙色に染まりつつあった。
入口の大扉の前で執事やメイドたちに見送られた後、フィリアナが玄関ホールの階段を上がっていると後ろから焦った声で呼び止められる。
「姫様、そろそろ日が沈みます。速くお部屋に戻られるようお願いいたします」
ロックは真剣な顔で右手を胸に添えてそう進言する。
「分かっています。そんなに焦らなくてもお日様はそう簡単に逃げたりしません。でも心配してくれてありがとうございます、ロック」
ロックの気遣いに感謝し、フィリアナは先に待機していたメイド二人とともにそのまま自室へと続く廊下の方に向かった。
長く続く廊下を歩きながらフィリアナは後ろについてくるメメやサシャと楽しく会話をしていた。
「姫様、今日もお疲れさまでした! 今日の視察はどうでしたか? 楽しかったですか? 何かいいことありましたか……何か問題がありませんでしたか?」
途中まで明るく聞いてきたのに最後は殺気を帯びた声色になったメメに苦笑しながらフィリアナは優しく答える。
「何も問題はありませんでしたよ。今日の視察はとても良いものでした。孤児院の様子を確認することが出来ましたし、子供たちや職員の方々と楽しくお話しすることも出きました」
「……そうですか! それは良かったです!!」
フィリアナの答えに満足し、殺気を収めたメメはすぐに満面の笑顔になる。
そんなメメをサシャは横から手を伸ばし彼女の頭を撫でる。
「メメはほんとぅに飽きないねぇ、まいにちまいにち姫様におんなじ質問をしてぇ、そろそろ違う質問に変えた方がいいよぅ。あとぅ姫様や私はもう慣れているとはいえぇ、その殺気を出す癖ぇ、そっちもそろそろ直そうよぅ」
メメはサシャの頭なでなでに甘えつつ、彼女のマイペースではあるが厳しい叱責に頬を膨らませる。
「だって姫様のこと心配なんだもん! 心配して何が悪いって言うのっ!!」
「う~ん、そういうわけじゃあなくてぇ……」
メメの噛みつきに言い募ろうとしたサシャだったが、それを遮ったのはフィリアナだった。
「いいのですよ。メメは私のためを思って毎日確認してくれるのですから」
「もぅ……姫様はメメを甘やかしすぎなんでんすぅ。姫様もそろそろメメに厳しい態度をとらないとぅ、メメがダメなままになっちゃいますよぅ」
サシャは自身の支えるお姫様にも注意をしてしまう。
本来は一介のメイドが自身より目上の存在に対して口出しすることは基本いけないことなのだが、このやり取りはメメとサシャがフィリアナのメイドになった頃からずっと続いているのでさすがにサシャは我慢ならず、現在ではたまにこうしてフィリアナにも文句をいっしまうのだ。
そんなサシャの言葉を気に障ることなくフィリアナは少し悪戯っぽく答える。
「そうですね……もうすぐ私も大人になりますから、今から厳しい接し方をするのもいいかもしれませんね」
「ええぇぇっ! 姫様、優しくなくなるんですか。そんなの嫌ですー!! …………でも、それはそれでいいかもしれません……」
何を想像したのかメメは少し気持ち悪いにやけ面になり、それを横で見ていたサシャは若干引き、フィリアナは純粋に面白いと感じクスクスと笑った。
そのまま他愛のない話をしていると、前方からこちらへ歩いてくる集団がいた。
そのうちの二人の顔を見たフィリアナはすぐに笑顔になって親しげに呼んだ。
「お父様、お母様!」
二人の人物――フィリアナの父にしてクリアレスタ皇国の皇帝アイドラント・クリアレスタとその妻である皇后のフィアンナ・クリアレスタは自分たちが溺愛する娘の呼びかけに笑顔で答えた。
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