白の皇女 その4
孤児院に入ると右側に受付と思われる窓口があり、前方には広い廊下が伸びていた。中は建物の外観と同じく過度な飾りつけは無く、代わりに綺麗な花を生けた花瓶と町の風景や周辺に生息する動物を描いた絵画が点在していた。
「こちらの部屋が調理室で、こちらの部屋は診療室になっています」
フィリアナたちはセシリアの説明を聞きながら後についていくと、奥から子供の騒ぎ声が聞こえてきた。やがて両開きの扉の前まで着くと幼い声が一層騒がしくなった。
「そしてここが子供たちの共用部屋兼食堂となっています」
セシリアは一緒にいた職員の一人とともに同時に扉を開けた。
すると突然、明るく元気な小波がフィリアナの元へなだれ込んで来てあっという間に彼女を取り囲んだ。
「ひめさまー!」
「わー! ひめさまだー!!」
「ほんものだー!」
周りから黄色い言葉が飛び交い、フィリアナは照れつつも笑顔を綻ばせる。しかし予想より遥かな数の多さもあり子供たちの引っ張り合い押し合いが強く、彼女は左へ右へと揺れてしまい徐々に困り目をなっていく。
「こらこら、みんな。フィリアナ様が困っているからその辺に……」
ロックが宥めようとするが子供たちは聞く耳を持たない。それどころか綱引きがより強くなろうとしたその時――。
パンッ!!
一瞬耳を塞ぎたくなるほどの強い破裂音のような音が響き、その場は瞬時に静かになった。
皆が恐る恐る音のした方向を向くとセシリアが両手を合わせていた。どうやら音の正体は彼女の一拍だったらしい。
「皆さん、フィリアナ様が困っています。その辺りにして部屋に戻ってください。フィリアナ様とのお話は部屋でゆっくりしましょう」
セシリアは凛とした、しかし優しさを含んだ声色で子供たちに指示を出す。子供たちは大きな返事をして他の職員たちに誘導されて部屋に戻っていった。
「申し訳ございません、フィリアナ様。子供たちはフィリアナ様に会えることを心待ちにしていましたので、ついはしゃいでしまいまして……」
「かまいません。わたしもみんなに会えることを楽しみにしていましたから。あんなに元気な姿を見せてくれてむしろとても良かったのです」
「姫様……! もったいなきお言葉」
この国の皇族に対して幼子であっても失礼なことをしてしまったにも関わらず、起こるどころか子供たちの歓迎を喜ぶフィリアナの言葉にセシリアは胸を打たれて深く腰を折る。
「頭を上げてください。さあ、中に入って子供たちといっぱいお話をしましょう!」
フィリアナにそう言われてしまえば従わざるおえない。
セシリアは顔を上げ、フィリアナと笑顔を交わす。そして、フィリアナたちとともに子供たちの待つ部屋へと入っていった。
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