白の皇女 その3
護衛たちがロックを落ち着かせている間、フィリアナは近くに設置されたベンチで代表して挨拶をした女性職員と少し話をすることにした。
「そういえば自己紹介が遅れましたが、私の名はセシリア・フィードと言います。ここの院長を務めさせていただくことになりました。こちらがリリエラ・マウルとシンディー・リーコット。副院長を務めてもらうことになりました」
「リリエラ・マウルです」
「シンディー・リーコットです!」
セシリアに紹介されたリリエラとシンディーは自分たちの名前を名乗りながらフィリアナにお辞儀をする。
フィリアナも彼女らに軽く頭を下げると、セシリアたちにいくつか質問をし出した。
「早速なのですが、皆さんはどうしてここで働くことにしたのですか?」
フィリアナの最初の質問に対してセシリアたちはすぐに答えることはなく、顔を見合わせてどう答えようかと苦笑いを浮かべた。
その様子にフィリアナは小首をかしげ不思議そうに見つめていると、やがてセシリアが遠慮がちに答える。
「実は、私たちは自ら志願したのではなく、皇帝陛下からの命で集められたのです……」
「えっ! そうなのですか!? ではどうして集められたのですか?」
意外な答えにフィリアナはつい口元に手を置いてしまうも、すぐに新たな疑問を口にした。
セシリアは当時のことを思い出しながら説明をし始めた。
ある日、セシリアたちのもとに一通の手紙が送られてきた。それには孤児院の建設に伴い、職員を配属するため王都に集まってほしいということが書かれていた。
セシリアたちは疑問を抱きつつもひとまず王都に集まると、宰相閣下が現れ、皇帝からの書状を読み上げた。
内容は職員の任命とその理由だった。
皇帝は孤児院に配属する者を決めるために国内の元孤児にあたる人物の情報を配下に調べさせ、修道院や親族の評判をもとに適正者を選んだ。それがセシリアたちであったことが明かされた。
セシリアたちは突然の任命と皇帝の予想外の考えにとても驚かされたが、彼女たちは今の孤児たちを助けられるならと思い、強制ではなかったにもかかわらず、ほとんどの者が孤児院の職員として働くことを決めた。
後にセシリアが院長になることが決まったのだが、それは彼女の評判も含め同じ職員となった者たちから院長にしてほしいと進言があったからだった。
一通り話を聞き終えたフィリアナは両手を合わせ、セシリアに称賛の眼差しを向ける。
「セシリア様は多くの方から信頼を寄せられていたのですね。とても素晴らしいことなのです!」
まさかフィリアナに褒められるとは思ってもいなかったセシリアは頬を赤らめてしまう。
「い、いえ! そんな……私は修道院でお世話になっていた頃から
「でもセシリアは修道女よりも親身になって子供たちの世話をしていました」
「私たちもセシリアさんに色々助けられたことがありますので、セシリアさんが院長になった方がいいと思ったんです!」
「ちょ、ちょっと二人とも!」
恥ずかしがるセシリアの言葉を補足するようにリリエラとシンディーが口にする。
それを聞いてセシリアはさらに顔を赤くし二人を責めるも、二人は事実を言ったまでといった感じで彼女に笑みを送るだけだった。
そんな様子を見ていたフィリアナも、若干涙目になっているセシリアに微笑む。
「やっぱりセシリア様は信頼されています。お二人がこんなにもセシリア様の良いところを知っているのですから。わたしもセシリア様はきっと良き院長になると思います」
「フィリアナ様…………そうですね。二人がこうして言ってくれていますし、フィリアナ様もそうおっしゃっるのですから……これから私は、みんなの良き院長になれると思います」
フィリアナの言葉に押され、真っ赤だったセシリアの表情は落ち着きを取り戻した。
「ですが、私よりもフィリアナ様の方が素晴らしいと思います。この孤児院で子供たちが暮らしていくことになったのは、フィリアナ様が陛下にご進言なさってくれたからです。あの騎士様が話していたほど……ではないかもしれませんが、十分誇ってもいいと思います」
それを聞いたフィリアナの顔から一瞬だけ笑顔が消え、セシリアたちから視線を外すと少し暗い表情となって俯いてしまう。
「……わたしは、ただ自分に出来ることはないか探していた時に、子供たちが苦しい思いをしていることを知ったのです……でも、今のわたしにはお父様やお母様のようなことは出来ないので、せめて自分に出来る範囲のことはしようと思って調べ回りました……本当はわたし自ら孤児院の建設に携わりたかったのですが…………」
徐々に元気を失くし、声が小さくなるフィリアナをセシリアたちは心配そうに見つめる。やがてフィリアナは明るい表情でセシリアたちに向き直る。
「でも、少しだけですが、
元気に振舞うフィリアナの様子にセシリアたちはホッと胸を撫で下ろした。また、彼女の努力家な部分を感じ取り、これからも暖かく応援していこうと心の中で決めた。
しばらく雑談に耽っていると、落ち着きを取り戻したロックと少々疲れ果てた護衛の者たちが戻ってきた。
フィリアナはベンチから立ち上がり、護衛の者たちに労いの言葉をかけると、彼らはそれに答えるように疲弊した片手を上げる。
次いでフィリアナはロックに軽く注意した後、セシリアたちに孤児院の中を案内するよう促した。
「では、そろそろ孤児院の案内をお願いします」
「はい、分かりました。それではついてきて下さい」
フィリアナはセシリアを先頭にロックたちとともに孤児院の扉へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます