白の皇女 その2

 王都セレスティアを中心に建国されたクリアレスタ皇国は世界最大の国土を誇る国である。

 土地の広さゆえに豊かな自然に囲まれたこの国では、水や動植物などの資源が豊富にあるため、人々は飢餓に苦しむ事はほとんど無く、そのうえ国の資源管理が徹底していることもあって民の暮らしはとても安定していた。そのためこの国は他国から一番の豊かさを誇る国と称されている。

 だがそんな国であっても事件や事故は必ず起こる。その中でこの国が抱える問題の一つとして孤児の存在が目立つようになっていた。

 親を亡くしてしまった子供は大半が親戚に身を置くことになったり修道院で預かることになったりするが、運悪く劣悪な環境にさらされ苦しい思いをする子もいれば、修道女シスターによる世話が行き届かず貧しい思いをする子もいた。

 そんな孤児たちの存在を知ったフィリアナは孤児について専属の家庭教師に教えてもらったり、城下の民から詳しく聞いて回ったりと独自に調査を行い、そしてとある国に孤児院という保護施設があることを知った。後日、彼女は父である皇帝に孤児院の建設を提案した。最初は断られるのではと思っていたフィリアナだったが、意外にも皇帝は彼女の願いを快く聞き入れ、すぐに孤児院の建設に動き出した。それから一ヶ月も経たない内に建物は完成した。


 着替えや朝食を済ませたフィリアナは、数人の護衛と彼女が幼い頃から護衛をしている専属騎士とともに王都の南東区に建てられた孤児院に赴いていた。


「これが孤児院ですね! さすが国一番の建築士の方々です。素敵な建物になっていますね」


「そうですね~。ここまで面白い外観なら、中もかなりのものになっているでしょうね」


 完成した建物を見てフィリアナと専属騎士はそれぞれ感想を漏らす。

 建てられた孤児院は二階建ての大きな木造建築で、壁には白を背景にシンブルな色とりどりの花が描かれていた。建物の前には孤児たちが伸び伸びと遊べる広さの庭が設けられ、その端の方には畑と思われるスペースが確保されていた。

 フィリアナたちは孤児院の中を見ようと建物に近づいていく。

 すると孤児院の扉が開き、中から数人の女性が出てきた。事前に職員の服装をフォルマから教えられていたフィリアナは彼女たちがここで働くことになった職員だとすぐに分かった。

 職員らはフィリアナたちの前まで来ると淑女の礼をとり、一人の女性が代表して挨拶をした。


「おはようございます。フィリアナ様」


「おはようございます。皆さん」


 フィリアナも軽くお辞儀をして挨拶を返す。


「フィリアナ様。このたびの件、姫様のおかげでこうして子供たちが安心して暮らせる場所が出来ました。本当になんとお礼を申し上げたら良いのか」


「ええ、わたしもこうして孤児院したことをとても嬉しく思います。ただ……わたしはお父様にお願いをしただけで、孤児院建設のためにそれ以上のことは何も出来ませんでしたが……」


 そう落ち込むフィリアナを一歩下がって見守っていた専属騎士が彼女の隣に近づき元気付ける。


「何をおっしゃるんですか。姫様が陛下に進言なさらなければ、この孤児院は建てられなかったのですよ。いや、むしろこれは全て姫様のおかげといっても過言ではありません!」


「ロック……さすがにそれは言い過ぎではありませんか?」


 フィリアナはロックと呼んだ騎士に感謝を抱きつつも、彼の大袈裟おおげさな発言が気になり優しくたしなめた。しかし彼は言うことを聞かず、身振り手振りを大きくして更にまくし立てる。


「いいえ! 姫様、これは誇ってもいいことなんですよ。姫様の行動一つで全てが動き出したわけですから。これは姫様の功績として後生に伝える必要があります。それに――」


 いつの間にかロックの独演会スピーチとなってしまい、職員らは唖然とした表情となり、フィリアナと護衛たちは呆れた様子で深いため息をこぼした。

 彼のこういった言動はこれが初めてではない。フィリアナが何かしら関わったことがあれば、彼はこうして彼女を祭り上げようとしてしまうのだ。そのたびにフィリアナや周りの者たちはロックを注意するが、彼はほとんど聞く耳を持たないので毎回困り果ててしまっている。

 またフィリアナたちは、ロックが悪気があって言っているのではなく、ただ純粋に褒めたいという気持ちだけで話していることを理解しているがために強く責めることも出来なくなってしまっていた。


「――ですから、姫様はこの国で一番の……んぐっ!」


 話をどんどんエスカレートさせていったロックだったが、唐突に護衛の一人が彼の口をふさぐ。続いて他の護衛たちも彼の体を取り押さえていく。

 これは彼らが最終的にロックを止めるために使っている方法だった。さすがに収拾がつかなくなると、彼らはこうしてロックを拘束し黙らせるようにしているのだ。

 そのまま護衛たちは抵抗するロックを無理矢理引きずりながらその場から立ち去っていった。

 目の前で起きたとんでもない光景に職員らは思わず目を丸くしてしまう。


「……すみません。いつものことなのであまり気になさらないでください」


 そんな彼女たちに対してフィリアナはただ申し訳なさそうに言いながら苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

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