白の皇女 その1

 カーテンが閉じられ、白を基調にデザインされたインテリアが黒に染まった静かな部屋。

 中央に置かれた天涯てんがい付きのベッドに一人の少女が横になっていた。

 少女はしばらく天涯を見つめていたが、カーテンの隙間から照らされる朝の日差しが徐々に強くなるに連れて、眠りに誘われるかのように少女の瞼はゆっくりと閉じる。

 丁度その時、部屋のドアをノックする音が鳴る。

 その音が聞こえなかったのか目をつむった少女は不思議と穏やかな寝顔を浮かべて熟睡じゅくすいしていた。

 寝室のドアが開かれ、部屋に三人のメイドが入ってくる。

 最初に入ってきた白髪の混じった髪を後ろに丸く留めた高齢のふくよかな女性は真っ赤なツインテールの少女とウェーブのかかった金髪の少女に指示を出し、自身は少女の元に近づく。

 彼女は少女の様子を確認し、安心するもどこか寂しそうな表情を浮かばせていたが、すぐに明るい顔になり少女を起こす。


「姫様、朝ですよ。起きてください」


 姫様と呼ばれた少女――フィリアナ・クリアレスタは先程閉じたばかりのはずのまぶたをゆっくりと開き、声のした方に視線を移す。

 その時、金髪のメイドがカーテンを一気に開き、日の光が部屋全体に広がった。

 フィリアナは優しそうな顔をした声の主に微笑み、体を起こす。

 透き通るような青い瞳に、純白に輝く白い髪をした少女は「ん~っ」と唸りながら伸びをし、目の前にいるメイドと挨拶を交わす。


「おはようございます、フォルマ。いつもありがとうございます」


「おはようございます、姫様。今日もお元気そうで何よりです。本日はどうなされますか?」


 フォルマにそう問われ、フィリアナは少し上を向いて考える。


「今日は……そうですね。城下の視察に行こうと思います。先月、お父様にお願いした孤児院の様子も兼ねて」


「そうですか。噂によればもう完成しているそうですよ。姫様がお顔を見せれば、孤児院の方々はきっと喜ぶことでしょう」


 二人が話していると、仕事を一通り終えたメイドたちがフィリアナの元に近づき一礼する。


「姫様、おはようございます!」


「おはよぅございますぅ、姫さまぁ」


 ハキハキと元気な挨拶をする赤毛のメイドとゆったりと眠たそうな挨拶をする金髪のメイドを交互に見ながらフィリアナは暖かな笑みを浮かべる。


「おはようございます、メメ、サシャ。いつもご苦労様です」


「いえいえ! 姫様のお世話が出来ることはあたしにとって最大級の誇りと幸福なんです。それに加えてねぎらいの言葉を貰えるなんて……あたし、喜びで気を失ってしまいます~!!」


 メメと呼ばれたメイドは額に手を当てながら大きく後ろへ仰け反る。その様子に対してサシャと呼ばれたメイドは独特の口調でゆっくりと話しながら彼女に物申す。


「私たち(・・・)じゃないんだねぇ。あとぉ、いつも思うけどぉ、メメは大袈裟おおげさすぎなんだよねぇ。毎回、姫様の労いの言葉に対して似たような反応をしてさぁ。もう聴き飽きたんだけどなぁ」


 サシャの指摘にメメはすぐに激昂して吠える。


「何よ、あんた。姫様からのお言葉が嬉しくないって言うのっ!」


「嬉しくないって訳じゃないけどぅ、もう何度も聴いているからぁ、せめて心の中で喜んでほしいなぁってぇ」


「はああぁ! 姫様のお言葉を心の中だけに納められるわけないでしょうがっ!! ちゃんと感謝の気持ちとしてこっちも言葉で返さなきゃ姫様に失礼でしょうがっ!!」


 穏やかに制するサシャに対して、メメは激しく怒鳴り散らかす。するとフォルマが二人に聞こえるように大きな声で優しくもどこか悪戯いたずらっぽく注意する。


「二人とも、そこまでにして。姫様のお着替えを手伝わないと。これ以上姫様を待たせて困らせる気?」


 それを聞いたメメは分かりやすく慌てて作業に戻り、サシャはホッと胸をで下ろし、フォルマに一礼をしてからマイペースに作業に戻った。

 そんな二人の様子を見たフィリアナとフォルマは顔を見合わせ笑い合う。


「さあ姫様。お着替えの準備を」


「はい」


 フォルマに促され、フィリアナはベッドから出て着替えを始めた。

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