第三章

第17話

〝こんばんは、よく眠れている?〟


 ふと目を開けると、そこはあの〝世界〟だった。

 膜を剥がして初めて目にできる、あのモノクロの世界。

 この〈瞳〉が自分に見せる異世界だったのだ。


 おまえは誰だ。

 そう尋ねたとき、白いシルエットの少年は神山に寄り添い、こう言った。


〝ぼくは、キミだよ──なんて云ったら、どう思うかな〟


 なにを言っているんだ、と戸惑う。

 少年は神山のそんな戸惑いを見透かして、


〝いままでずっと、ぼくはキミを見てきたんだけどね。でも、キミの前に現れる気はさらさらなかったんだよ〟


 じゃあ、なんでいま現れたんだ?

 少年は顔を上げて、うーん、と唸った。そうして数秒、ふたたび神山を向いて、


〝なんでかな〟


 と笑った。

 あどけない少年の声は、なぜだか親近感が湧いた。子どもに対する柔らかい気持ちとはまた違う、別の趣向のもの。


 なんだろう、この気持ちは。

 ひどく、気持ち悪い。


〝キミの成長、というのかな。あるいは、その覚悟を見抜いて頼みたいことがあった。たぶん、そんな感じなのだと思う〟


 ……なるほど。

 神山は頷いた。が、おそらくここに実体はない。そこに感覚はあっても動くべき肉体はなかったから。


〝もしキミが、キミ自身の力の本質を理解できたとき。

 そのときがたぶん、ぼくとキミの別れになると思う。これはキミにとってもいい話なんだよ、じつは。……きょとんとしてるね。たしかに、たったこれだけじゃわからないだろうさ〟


 でも、と少年は続ける。


〝説明しても、たぶん情報量多いからさ。一発じゃ頭の中に入り切らないと思うんだ。だから、いまから提示する情報はひとつだけ〟


 少年は人差し指を立てて、やがてその先を自分へ向けた。


〝ぼくの名前は、イオリ。よろしくね、トウヤさん〟


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