第48話 私達の初夜は何処へ……

 頭がガンガンして目が覚めた。喉がカラカラで、明らかに二日酔いだ。


「ロッティ!」

「……あ……あた……まが……」

「どこか痛いのか?!具合は?!あァァ……、よく無事で目覚めて……ゥッぐ」


 アダムの綺麗な紫色の瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。


 イケメンは泣いても綺麗なんだな。鼻水垂らしていても絵になるって、なかなかないと思う……なんてくだらないことを考えていた。


「今……何時?」


 結婚式、披露宴ときたら、次はやっばわり初夜でしょうが。今日こそはアダムとめくるめく官能……うぷっ、気持ち悪いかも。完璧な二日酔いだ。残念ながら、この身体とアルコールは相性が悪いらしい。たった一杯のシャンパンでこの体たらく……、全くもって情けない。


「二時だよ」

「二時?そんなに寝ちゃってたの?!やば、化粧も落としてお風呂も入らないとなのに」

「無理したら駄目だ。化粧はカリナが落としてくれた。ドレスを脱がせて寝間着を着せたのもカリナだ」


 アタタタ……と頭を押さえながらも、フラフラと起き上がろうとする私の肩を押さえ、アダムは私をベッドの中に戻す。


「あ……本当だ。でもやっぱりお風呂は」

「駄目だ、寝てないと。ロッティは毒を飲んで倒れたんだ。あのシャンパンには、干した麻痺茸の粉が致死量相当量入っていたらしい。一緒に飲んだアナベルは、一口しか飲まなかったのに重体でいまだに目覚めていない」

「え?アナベル夫人のシャンパンにも毒が?」

「あぁ。ロッティのシャンパングラスに入っていたのと同じ毒が入っていたよ。テレジア第二妃いわく、後宮をなくそうと言い出したロッティを恨んで、無理心中しようとしたんだろうってシレッと言っていたが、あの女が仕組んだ筈なんだ。アナベル夫人が目覚めたら話を聞きだそうと思っているんだが、目覚めてくれるかどうか……」

「まだ息はあるのね?」

「ああ……かろうじて」


 毒を仕込んだのはテレジアだろうし、アナベルはその協力者だろう。自分が怪しまれない為に同じ毒を少量口にしたつもりが、間違って多く口にしてしまったのか?

 いや、麻痺茸の毒は即効性だ。あの場所でそんなものを使い私が目の前で死んだら、シャンパンを渡したアナベルが第一容疑者になって、下手したら死罪だ。いくらテレジアに言われたからといって、そんな危ないことに手を出すだろうか?

 考えられるのは、軽めの毒……媚薬のようなものだと言われていたとか。公衆の面前で痴態を曝け出したら、私の面目は丸つぶれになるだろうし、嫌がらせとしたら有り得そうだ。媚薬ならば、一口舐めるくらいならば気分が高揚するくらいですむ。ちょっと発散させてあげればよいのだから。


 アナベルには生きて証言してもらわないと。あと、私には二日酔いのお薬を……。


「まだ二時なのよね。でも、朝まで待っている間にアナベル夫人になにかあてもまずいよね。アダム、こんな時間に悪いんだけど、裏庭の薬草園に付き合ってくれない?」

「薬草園?あぁ、あの雑草がもっさり生えた」

「雑草じゃないからね。見えなくはないけどさ。外暗いよね。カンテラとかあるかな」

「いや、明るいよ。昼間の二時だから」

「え?」


 アダムは窓の方へ歩いていくと、カーテンを思い切り開けた。明るい日差しが部屋を照らし、太陽が昇っているのがわかる。カーテンの遮光半端ないね……じゃなく、私達の初夜は何処?!


 ベッドに崩れ落ちる私に、アダムは慌てて駆け寄ってくる。


「だから無理するなって」

「……初夜がァァァッ!」

「……いや、野草園だな。一緒に行こうか」


 呻く私の言葉をまるっと聞かなかったことにしたアダムは、私をお嫁さん抱っこしてベッドから連れ出した。


 逆だよね?!お嫁さん抱っこしてベッドに連れて行くんじゃないの?!だって待ちに待った初夜だったんだよ!


 前世でご飯の代わりに酒を飲んでいた私が禁酒を誓った瞬間だった。


 無くなった初夜を憂いている間に裏庭につき、私はとりあえず二日酔いに効く野草を摘んでモシャモシャ食べだした。本当はすり潰してその汁を砂糖汁で割って飲むんだよね。すっごく苦いから。でも、今の私にはこの苦さがちょうど良い。酔い潰れて初夜を台無しにしてしまった私にはな!


「それ……、麻痺茸の解毒剤?」

「いんや、ただの二日酔いに効く激苦の薬草」

「……二日酔い?」

「そう。私、麻痺茸はよく食べてたからあれくらいじゃ効かないの」

「食べて……た?」

「うん。ほとんどの毒キノコや毒草は食べたことあるよ。眠りキノコもね。だから、けっこう耐性できてて、めったな毒じゃ死なないからね。味の鑑別もできるし、毒見役にはもってこいだよ」


 胸を張って答える私に、アダムはガックリと脱力する。


「王太子妃の毒見役はいても、王太子妃が毒見役とかありえないだろ……。ってか、毒の味がわかるって、シャンパンに毒が入ってるってわかっててあれを飲んだのか?!」

「うん。あれくらいじゃなんともならないって思ったし、前世ぶりのお酒飲みたかったんだもん」


 アダムは屈んで私に視線を合わせると、私の両肩をつかんで顔を寄せてきた。


 チューかな?チューでもいいけど、激苦薬草の味するけどいいかな?


 私がうーんと唇を尖らすと、アダムが真剣な瞳でゆっくり言葉を区切りながら言った。


「いいかい、シャーロット。毒を飲んだら駄目だ。毒は、ペッして。いいね、次やったらお仕置きするよ」


 お仕置き?え?エロい感じでお仕置きされたいんだけど。アダムは足フェチのMかと思いきや、Sもいける人ですかね。もちろん私も両方付き合えるけどさ。


「わかった?毒はペッだよ」

「お仕置きってどうするの?」


 期待に満ち溢れた瞳でアダムを見上げると、アダムは大きなため息をついた。


「一週間チュー禁止」

「ええ?!」

「僕にも触らない」

「ええッッッ!いつもだってほとんど触らせてくれないじゃん」


 エロエロなチューはしてくれるようになったけど、いまだにノータッチなんだよ。いつも、すきをついてちょろっとお触りするんだけど、アダムにうまくブロックされちゃうんだよね。


「それが嫌なら、毒は食べないし飲まない。わかった?」

「わかったよ。次からは毒盛った人の顔目掛けて毒霧シャワーをおみまいするよ」

「いや、普通にハンカチとかに出して」

「はーい」


 二日酔いの薬草が効いてきて頭がすっきりしてきた私は、麻痺茸の解毒薬となる薬草を摘むとハンカチに包んだ。


「さ、後宮に行こう」

「いや、その前に着替えようか」


 そういえば、防御力マシマシの寝間着を着たままだった。

 というか、初夜になる筈だった昨日の夜、わざわざこれを選んで私に着せたカリナに小さな抵抗を感じないでもない。まぁ、結局昼過ぎまで寝てしまったから、なに着ててもかわらなかっただろうけどね。


 解毒薬を手に後宮へ向かう前に、まずはお着替えタイムです!

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