第47話 シャーロットの誕生日
今日は私の十五歳の誕生日&アダムとの結婚一周年記念日。
そして、国を上げての大々的な結婚式が行われるのも今日である。結婚式を行うことで、私がアダムの正式な正妃であることが、国内外に知れ渡ることになる。
この世界に純白のウエディングドレスの習慣はなく、アダムの瞳の色をイメージした淡い紫のドレスは、ブラックダイヤがふんだんに散りばめられており、キラキラと輝いていた。オニキスとアメジストで彩られた小さめのティアラを頭につけ、アメジストの首飾りにイヤリングをつける。マリア渾身の化粧を施された私は、今日の主役らしく今までで一番綺麗に見えた。
「化けるものですね」
「ロザリー、言い方」
マリアの手伝いをしていたカリナが、化粧道具を片付けながら私の方をチラチラ見ているのを鏡越しに気がついた。
「ロザリー、カリナとちょいと話したいんだけど」
「はあ。まぁ、わかりました。では扉の外で待機してます。でも、式典まではあまり時間はありませんから」
「わかってるよ」
ロザリーとマリアは部屋を出ていき、カリナと二人っきりになる。
「なんか言いたいことがあればどうぞ」
文句は口だけでお願いします。決闘とか勝てる気がしないからね。
「……アダム兄様をよろしくお願いいたします」
「そりゃね、お願いされなくてもよろしくするよ。今日のアダムの宣言の話、聞いてる?」
「……はい」
アダムは結婚の式典の誓いに、妃も夫人も私以外の妻は持たないと宣言することを決めた。もし私達に跡継ぎとなる男児が生まれなかった場合、跡継ぎとしてルチア元第六妃の第一子であるラルゴを指名することも正式な文書としてもうサイン済みだ。
「アダムは私以外の妃は持たないし、後継者問題もクリアした。カリナがどんなに待っても、アダムのお嫁さんにはなれないんだ。……ごめん」
「ハハ……あなたと張り合う気などもうありません。あなたは本当に規格外ですから。後宮を解体しようなんて、私は思いつきもしなかった。アダム兄様が女性嫌いになった原因なのに、その存在を受け入れてしまっていました。それどころか、あのことがあったからこそ、アダム兄様が他の女性を受け入れることはないんだと醜いことまで考えていました」
「まぁ、カリナの気持ちもわからなくもないけど……。後宮もだいぶ縮小はできたけど、まだ面倒なのが残ってるから気は抜けないね。でも、アダムに手出しはさせないから心配しないで。妃も夫人も私以外は娶らないってわかれば、アダムに色仕掛けしてくる人間は減るよね。アハハハ、私が狙われることになるのかな。カリナには侍女兼護衛として頑張ってもらわないとだよ」
この際、厩舎に寝泊まりしようかな。マロンが一番頼りになるから。
「もちろんです。これからは、シャーロット様にしっかりお仕えします。それがアダム兄……王太子殿下の為になりますから」
カリナの長い初恋が、良い具合に昇華すれば……と願いつつ、ノックの音によりこの話は終わりとなった。
「シャーロット様、お時間です」
私は気合いを入れて立ち上がった。
★★★
結婚の式典も終わり、アダムの宣誓は全国民に大きな衝撃を与えたようだった。平民には好意的に受け取られ、貴族……特に若い娘のいる貴族達には反感を買った。ただ、ダニエル王が公的に承認したので、反感はくすぶり表立っては出てこなかったが。
パレードの間中、アダムは宣言を浸透させようと溺愛アピールをしているのか、私のことをしっかりと抱きしめ、頬や頭にキスを落としていた。たまに甘く見つめられてディープなキスまでかますもんだから、公衆の面前で思わず発情しかけたよ。
キスされて恥ずかしがる初心な王太子妃でも演じようかなって思ったけど、あまりにキスの頻度が多いもんだから諦めた。
結婚して一年たつしね、実際にキスするようになったのは最近だけど、誰もそんなことを予想だにしないようなイチャイチャぶりを見せつけた。
実際は、ヴァージンロードをヴァージンのまま歩いたんだけどね!
これが日常ですって顔して、アダムにベッタリくっついて、笑顔で国民に手を振り続けた。すでに腕が筋肉痛で、しばらくは手を上げたくないくらいだ。
パレードが終わると、いわゆる披露宴になるんだろうね。全貴族を招待しての夜会が開かれた。
狸爺達のジャブのように繰り出される嫌味や、若い令嬢達の非難めいたキツイ視線が痛かったこと。お目出度い席で、一応主役の一人よ?
まぁ、鼻で笑ってスルーしたけどさ。
「ロッティ、疲れただろ」
「まぁね。もう早く全部脱いで身軽になってベッドにダイブしたいよ」
高砂ではないけれど、飾り付けられた壇上でアダムと私は顔を寄せてコソコソと話す。
ファーストダンスも終わったし、もう少しお披露目パンダよろしく座っていれば退場してもいいかな?
もう疲れて眠くて眠くて身体が舟を漕ぎ始めた頃、テレジア第二妃がアナベル夫人を伴ってやってきた。
黒髪黒目は親近感がわくが、オリエンタルというには顔の作りが派手目だし、曲線美が美しい体型はもうすぐ四十になろうというのに崩れることを知らない。妖艶な美女……という雰囲気のテレジア第二妃はニッコリと微笑んで私の前に立ち、その後ろに控えるアナベルは若干顔色が悪く見えた。
「アダム様、シャーロット様、この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
私達は二人揃って頭を下げた。
「本当におめでたいわ。私はアダム様の母親代わりだと自負しておりますの。それなのに、一年間も息子の妻に会わせてもらえなくて、切ない思いをいたしましたのよ」
「申し訳ありません。王女とはいえただの田舎者ですので、不勉強を晒すのが恥ずかしく、お茶会などは辞退させていただいておりました」
「まぁ、気心が知れた人達が集まって、他愛のない話をしているだけですのよ。ねぇ、アナベル」
「さようでございます」
「私より、あなたの方がシャーロット様と年が近いわね。ぜひ仲良くさせていただきなさいな。シャーロット様、アナベルはまだ後宮に入ってまもないんです。最近はあの広い後宮で周りも寂しくなってしまったようですし、話し相手になってあげてくださいな」
「はぁ」
仲良くなれる気がしないから、適当に相槌をうって受け流す。アナベルは背中に自信があるのか、今日もまた背中がガッツリ開いた青いドレスを着て、視線はアダムから離れない。まだアダムを諦めることができないようだ。
「アナベル、シャーロット様と親睦を深める為にも、ぜひ乾杯させていただきなさいな」
「はい、テレジア様」
アナベルは私の前に進み出て、ピンク色のシュワシュワした飲み物の入ったグラスを差し出してきた。
もしかしてシャンパン?
「シャーロットはまだ十五になったばかりです。酒ならば僕がかわりにいただきましょう」
アダムが牽制するように私の前に一歩出た。
明らかに怪しいよね。確実に毒物が入っているとみた。ならば、毒になれていないアダムが口にするより、ある程度毒に耐性がある私が試した方がいいよね。
「アダム、テレジア様がおっしゃる通りに」
アダムを制してアナベルの手からグラスを受け取る。
「では、二人の親睦を祝して」
「乾杯」
「乾杯」
私は一口口に含み、シャンパンの中に混ざる異物の存在を感知する。これは……麻痺茸の毒だな。中枢神経が麻痺すると呼吸を止めてしまう類のものだ。でも、私ならこれくらいならばちょっと手足が痺れるくらいですむ。麻痺茸もね、焼いて食べると美味なのよ。秋の味覚のうちの一つで、うちの家族ならばこの痺れも癖になると、けっこう好んで食べるキノコだ。
というわけで、初シャンパンいただきます!
私はいっきにシャンパングラスをあおった。
「ロッティ!」
かなりアルコール度数の高いシャンパンだったらしく、飲んだ途端に喉の奥がカッと熱くなり、頭がグラングランする。
私はシャンパングラスを握りしめたままゆっくりと前に倒れそうになり、アダムがそんな私を抱きとめてくれた。
そのままアダムにしがみつくように、私は意識を手放してしまった。
「ロッティ?!ロッティ!」
これは……毒のせいじゃ……。
この身体は、毒物や媚薬には耐性はあるけれど、アルコールには耐性が全くなかったようです。
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