第46話 合コン開催
朝起きた時、私はシーツを抱え込みながらお腹丸出しで床に転がっていた。
あれ?
なんか久しぶりに寝相の悪さが復活したかな。
ヘクチンッとクシャミを一つし、私はボサボサになった頭をポリポリとかいた。
「おはようございます」
「……カリナ、おはよう。アハハハ、ちょっと寝ぼけて床で寝てたみたい」
「申し訳ございません。何度かベッドに運んだのですが、懲りずにベッドからお落ちになるので、危ないので落ちたままにさせていただきました」
「あぁ、うん。気にしないで。最近はなかったんだけどな」
まさか、毎晩アダムが私がベッドから落ちないようにしていてくれたとも知らずに、私は朝の仕度をしながら首を傾げた。
「王太子殿下は昨日は自室でお休みになられたようですが、いかがなさいましたか?」
無表情のくせに、そんなに目だけを期待に輝かして聞かないで欲しいな。
「どうもしないよ。昨日だって仲良ししたし。もしかしたら、私の寝相の悪さが再発して、アダムを蹴り出しちゃったかもしれないな」
「あー……ありえそうですね」
だから、無表情のくせに残念感だけわかるって、どんだけ目で語ってるのよ。
それから朝食の間でアダムに会ったけど普通に甘々な感じだったし、その後もキスだけなら濃厚な触れ合いも普通にするようになったんだけど、なぜかエロ寝間着(子供用下着)を身に着けた時だけ私の寝相の悪さが復活し、アダムは自室で眠っているようだった。
試しに、いつもの防御力が無駄に高い寝間着を着てみたら、朝アダムに抱きしめられて寝ていたから、もしかしたら開放感のある寝間着だと寝相が悪くなるのでは?と、エロ寝間着の出現頻度は少なくなった。
だってさ、エロエロのチューしながら眠りについて、朝に床でお腹丸出しで一人目覚めるより、エロエロのチューしながら眠りについて、朝にアダムに抱きしめられて起きるんなら、絶対に後者のが良くない?
ただ、チュー以上には進まないんだよね。私が触ろうとするとブロックしてくるし、アダムからは触ってはくれないしで……。
チューはかなりエロいのかますくせに、それ以上してくれないとか、欲求不満がガン溜まりで、それこそアダムを襲っちゃいそうだ。
せめて、触らせて欲しい!味あわせて欲しい!
痴女になりそうな自分を毎晩律している私って、かなり理性的な女だと思わない?
★★★
第一回目合コンが開催された。ダニエル王の合意も取れ、私お勧めの貴族子弟を揃えに揃えたよ。
主に騎士団員を優遇して選んだ。彼らは見目が良い者が多く、優秀な戦果を上げた者が多かった。また、騎士団員になるのは貴族でも第二子第三子が多く、特に第一騎士団は王族の護衛がメインの仕事だから、顔見知りも多いだろうとふんだ。もしかしたら、ちょっとした護衛をされている間に、恋心が芽生えたりとかあるかもしれないし。
第二妃テレジア、第三妃ミランダだけは不参加だったが、それ以外は驚くことに積極的に参加してくれた。第五妃スザンナだけはダニエル王からのNGが出て、招待状すら送れなかったが、合コン開催の話はしてあった。
こんなに皆欲求不満だったのか……と、私は自分の欲求不満にも重ねてつい涙ぐんでしまう。
銀髪にグレーの瞳、見るからにクール系の美女が会場の真ん中で人に囲まれていた。周りは騒がしいのに、彼女は一人ある方向を向いている。いつもの毒舌は鳴りを潜めているようだ。第六妃ルチア、彼女の瞳の先には第一騎士団副団長であるヨシュアがいた。
ヨシュアはガルステ子爵家の三男で、三十五歳にもなるがいまだに独身。身体はムキムキでゴツいのに、顔は糸目で淡白、あまり自己主張するタイプじゃないらしく、いつも大きな身体を縮こまらせてイーサンの後ろに影のように付き従っているイメージの男だ。
この会場でも、なるべく目立たないようにか、壁際に立ち警護しているかに見えるが、れっきとした合コン出席者である。
ある一人の夫人がヨシュアに話しかけに行き、それを見たルチアの瞳の色が変わった。腕を組み、顎を上げてヨシュアに話しかけている夫人を明らかに睨みつけている。不機嫌丸出しのその態度に、周りにいた取り巻き達は用事を口に一人づつ離れていく。
あれは確実に嫉妬している女の目だ。
妃の三大勢力の一人であるルチアのマッチングに成功すれば、後宮解体計画も弾みがつくというものだ。
とうとう一人になってしまったルチアに、私はそっと近寄った。
私はこの合コンの主催者として、お見合いババア……もとい合コンアドバイザー的立場で参加していた。
「ルチア様、お初にお目にかかります。アダム王太子が妃シャーロットと申します」
これでも一応元王女だし、王太子妃教育もまもなく一年になるからね、完璧な淑女の礼くらいは完璧にこなせるのよ。
「あなたが王太子の?」
顎をツンと上げ、視線だけで上から下までジロジロ見られる。スレンダーな身体ながら豊かな胸の下で腕を組み、綺麗な顔はニコリとも微笑まない。
本当は初めましてではないんだけど、前は侍女の変装をしていたし、直に話した訳じゃないから。
「今回の主旨にご賛同いただけたようでありがとう御座います」
「別に、私は妃を辞するつもりなんかないわ。第一、合同コンパというものを初めて耳にしたから、どのようなものか気になって来ただけ。つまらないただの立食パーティーではないの」
「まぁ、出会いの場ではありますね。あちらにカップルシートがありまして、お話してみたい男性とお話できるシステムになっております。半個室になっておりますので、周りを気にせずに話すことができ、また完全な個室ではないので変な噂がたつこともございません」
ルチアはカップルシートが気になるようで、チラチラとカップルシートとヨシュアを交互に見ている。
「もしよろしければ、一度利用してみませんか?ルチア様が利用してくだされば、皆さんも積極的に利用してくださると思いますし。この合コンを盛り上げる為にもよろしくお願いいたします。お相手は……私が適当にお連れしてきてよろしいですか?そうですね、ガルステ副団長でいかがでしょうか?ここにいらしている騎士団員の中では一番地位が高いと思いますし」
「ガルステ子爵三男様……」
「あ、あそこのカップルシートの中では無礼講でお願いします。お互いにお名前で呼んでください。この合コンの規則ですから」
「あなたがどうしてもというなら、しょうがないからあなたの顔をたてて差し上げてよ」
ルチアはゴクリと唾を飲み込むと、背筋をピンと伸ばしてカップルシートに向かって歩いて行った。なんとなくその背中がウキウキして見えるのは気のせいではないだろう。
私はさっそくヨシュアの元へ向かった。さっき話していた夫人はすでにいなく、すっかり壁の花になっている。
「ヨシュア副団長、お久しぶりです」
「これはシャーロット殿、ニングスキー戦ぶりです」
畏まって礼をとろうとするのを手で制すると、私はヨシュアの腕をひいた。
「ヨシュア副団長は今お付き合いしている人はいないんだよね。この合コンの主旨も理解して参加してくれたんだよね」
「まぁ……俺みたいなむさ苦しい男を相手してくれる女性がいるとも思えませんが。女性に縁がなく、この年まで独身ですので、お付き合いしている女性はいません」
「ならちょうどいいや。ちょっと人身御供になって」
「は?」
「ルチア第六妃からご指名。あそこのカップルシートでお話してきて欲しいの。多分だけど、ルチア第六妃はヨシュアのことが気になってるみたいなの。ちょいと毒舌みたいだけど、ヨシュアなら聞き流してうまくあしらえるでしょ」
ヨシュアはカップルシートに目をやる。目隠しがあるから顔は見えない状態だが、足元は見えるからルチアの銀色のドレスと綺麗に揃えられた細い足だけは見えた。
「俺……でいいんでしょうか?」
「ヨシュアがいいんじゃないかな?というか、ヨシュアはルチア第六妃でいいの?」
「俺でいいのならぜひ!」
あら、予想外に両想いかも。
ヨシュアが言うには、ルチアがこの国に嫁いでくる時に、ヨシュアが護衛の一人だったとか。敗戦国の姫として気丈に振る舞うルチアに恋心を抱くも、叶わない恋を封印して彼女を守る騎士であることを誓ったらしい。ルチアが毒舌を吐くのは、他の妃達にバカにされないよう、呑まれないように自衛の為だって……本当か?
「今回の合コンはね、ダニエル王が後宮を解体……いや縮小したくて開催したの。こんな機会なかなかないからね。モノにするなら今だよ」
「……行きます!」
「よし!行って来い!」
私が景気づけにヨシュアの背中を叩くと、ヨシュアはルチアのいるカップルシートのみを睨みつけるように歩いて行った。
結果、ルチアはヨシュアに下賜されることが一番に決まり、それを追うように続々とカップルが成立し、妃は六人、夫人に至っては二十三人が後宮から出て行った。
残ったのは、テレジア第二妃、ミランダ第三妃、スザンナ第五妃、エミリヤ第十五妃、テレジア派のアナベル夫人とミランダ派のダイアナ夫人の六人だけだった。
ダニエル王、全然愛されてないじゃん。
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