第45話 上級テクですね

「後宮の解体……ですって?」


 エミリヤは紅茶のカップを口につけようとして動作を止めた。


「はい。ドロドロした大奥みたいなのはもう必要ないかなって。アダムパパリンだって、結局はアダムママリンがいればもういいんですよね?子供だってもう増やす必要ないって言ってましたもん」

「大奥って?」


 エミリヤは振り返って、護衛についてきたロザリーと私の付き添いのカリナに聞いたが、二人共首を傾げるしかなかった。この話題を共有できるのはアダムだけだろう。


「とにかく、アダムのトラウマでもある後宮をなくすのは、アダムパパリンとママリンの為にもなる筈。欲求不満の妃や夫人達にだって、新しい旦那様と官能の世界を堪能した方が、モヤモヤと年をとるよりもいいと思うし」


 エミリヤはしばらく考えているようだったが、ゆっくりと首を横に振った。


「ここにしか居場所がない人もいる。祖国もすでになく、頼る家族もいないような。男性に依存することを良しとしない女性もいるわ。ごく少数ですけれど。あとは、陛下の権力に固執している方も多いでしょう」


 エミリヤはニコリと微笑んだ。


「……なるほど。じゃあとりあえず後宮にうんざりしていて、男性に飢えている夫人に退場してもらおう。アダムを襲おうとか考えているような」

「どうやって?」

「合コンです」

「合コン?」


 貴族のほとんどが、親が結婚相手を決めて家の為に結婚する。恋愛結婚なんてまずない。もちろん合コンなんて文化がある筈ない。


「適齢期の男性を大量に集めて、後宮で立食パーティーみたいなのするの。次男とか三男とかであぶれてる貴族男性はいっぱいいるじゃん。夫人達とうまくマッチングした暁には、多大な持参金と領地権を夫人に与えて下賜されるって噂ばらまけば、きっと夫人達に熱烈アプローチするでしょ。後宮のこれからの維持費をかんがえれば持参金なんか屁でもないだろうし、戦争で奪ったものの手に余っている領土だって沢山あるんじゃないかな。うちの兄なんか、ニングスキーの領地権まで押し付けられて、ヒーヒー言ってるよ」


 現存の妃が十人、夫人が二十五人。三十五人くらいならすぐに調達できそうだ。

 私は午前の授業で使う予定だった貴族名鑑を取り出し、ドンッとテーブルの上に置いた。この中にはリズパインの貴族が網羅され、しかも家族構成から絵姿まで載っているのだ。いわば、お見合いバイブルみたいなものだと気がついた。ちなみにね、うちの兄、スチュワートも未婚なうえに婚約者もいない。かなりお買い得じゃない?


「……無理やり下賜するのではないということですか?」

「そう!積極的に結婚を考えている男性と知り合うきっかけを作るのが合コン(本当は合同見合いが正しいかもだけど)。で、恋愛してもらって自発的に後宮を出てもらうの」

「夫人達ならば……、何人かは減りそうではありますね。わかりました、陛下にお話してみます」

「でね、エミリヤ様ならば貴族達に詳しいでしょ?魅力的な男性をピックアップしてほしいの。あと、妃や夫人達の特徴とか趣味とかも教えて欲しくて。どうせ集めるなら、よりマッチング率が上がる相手を揃えたいじゃん。特にアダムに手を出しそうな夫人のことは詳しくね」


 こうなりゃとことん見合いババアに徹するよ!


 エミリヤの説明を聞きながら、貴族名鑑を熟読していく。目的は見合い相手となるイイ男の選別なんだけど、エミリヤの話が面白くて、スルスルと頭に入っていく。何気に勉強になったのだった。


 私は貴族名鑑に印をつけたり書き込んだりしつつ、いつの間にか時間が過ぎていった。


 ★★★


「今日はエミリヤ様のところへ行ったんだって?」

「……うん」


 私はシーツをかぶり、ベッドにうつ伏せの状態で寝転びながら、貴族名鑑に目を通していた。


「勉強?」

「……うん」


 アダムがベッドにやってきて、私の横に腰を下ろした。寝ている間に髪の毛が爆発しないように、オイルを馴染ませながらゆるく編み込みをしてくれる。髪をすかれる感覚に、ついピクリと反応しそうになる。


「ね、なんで若い男性貴族ばっかに印がついてるんだ?しかも書き込みまで」

「ウフフフ、もしかしてヤキモチ?」

「もしかしなくてもね」


 結い終わった後頭部にキスされて、私は一瞬でスイッチが入った。貴族名鑑なんか見ている場合じゃないよね。


 私はゴロンと仰向けに寝返りをうつと、アダムに向かって手を伸ばした。


「アダム、抱っこ」


 アダムは笑いながら私を抱き起こしてくれ、上半身にかかっていたシーツがハラリと落ちた。


「えっ?」


 今日の寝間着は、ロザリーが熟考して買ってきてくれた逸品だ。半袖で身体にピッタリしたような布地なんだけど、胸から下はスッケスケでお臍が丸見えなの。下はマイクロミニのフレアスカートのようになっているワンピースだ。色は薄いパステルパープル。


「えェッ?!」


 アダムの視線が、丸見えのお臍から太腿を行ったり来たりしている。

 私は割座から膝をちょっとずつ開いていく。アダムの視線が太腿に固定された。


 見てる、見てる! 

 やっぱり足フェチのアダムを誘惑するには、足を出すに限るよね。スカートの中は見せパンみたいなフリフリのかぼちゃパンツミニを履いている。この短い丈のかぼちゃパンツがなくてさ、ロザリーが私の説明を聞きながらリメイクしてくれたの。だって、マイクロミニのワンピースから丈長めのかぼちゃパンツが飛び出していたら、色気も吹っ飛ぶと思わない?


 大人の女性の場合、こういうワンピース型の寝着を着て夫婦生活を楽しむ時は、ドロワーズなんかは履かない。ノーパソで挑む訳よ。


 アダムの喉仏がゴクリと動く。


 アダムももちろんノーパソを連想したんだろう。アハハハ、履いてますから。朝、私を翻弄してくれたお返しだ。


「アダム……今日はチューしてくれないの?」


 色気よりも可愛らしさを全面に出すように、コテンと首を傾げて見せる。


「……する」


 アダムがやはり昨日のような軽めのキスをしてきたので、私はアダムの首にガッツリしがみつき、ハムハムと下唇を喰んでみた。アダムは私を抱き寄せることもなく、硬直してしまったようで全く動かない。

 舌をチロッと出して、アダムの唇を辿るようにゆっくり舐めた。最後に上唇と下唇の間を舌で数回突っつく。


 ほら、開けて。


 うっすらと目を開けてアダムを見ると、アダムは目を閉じることなく、瞬きすら忘れたように私をガン見していた。

 その瞳には嫌悪感はなく、情欲の色が強く表れていた。


 これはいけそうだ。


 口角がクッと上がり笑みを浮かべた私は、さらにお強請りをするように小刻みに舌を動かした。唇を割り、歯列に舌を這わせると、アダムの口が僅かに開いた。この機会を逃す筈もなく、舌をアダムの口内に突っ込み、大胆に舌に舌を絡めた。舌で舌を扱くように動かすと、アダムの手が私の腰を抱き寄せ、アダムも積極的に舌を使い出した。


 そのキステクはかなり上級者のもので、私は夢中になっていつの間にかアダムの両太腿を跨ぐようにアダムに乗り上げていた。涎が垂れるのも気にせず、お互いの身体を擦り合わせるようにしながらグチュグチュと舌を絡ませ合う。


 お腹がキュンキュンしてきた。アダムのアダム君も完勃ちしているのを感じ、ついそこに股間を擦りつけるように腰を動かしてしまう。


 なんか、すっごいブツをお持ちのようで!


「ロッティ……」

「アダム……触っていい?」


 つい欲望のままにお伺いしてしまう。だって、こんな立派なの目の前にしたら、そりゃ触るだろうし、扱くだろうし、咥えたくなっちゃうよね。


「駄目!まだ駄目だ!」


 アダムの膝から下ろされ、キスも終了してしまう。


「えーッ、夫婦なんだからいいじゃん!」


 前のめりになってアダムの股間を一撫ですると、アダムはビクリと身体を震わせ、両手で股間をブロックした。

 隠しきれてませんけどね!


「ちょ……ちょっと仕事してくる!」


 アダムは股間に手を当てたままベッドから下りると、夫婦の寝室から飛び出して行った。


「チッ!逃げられた」


 けど、今日は収穫がいっぱいあったからね。これで勘弁してやらぁ!


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