第24話 私達は同郷の徒
「……で、アダムは何人なの」
渋々タオルに巻かれたままで、私は唇を尖らせてアダムを見上げた。なんか納得いかないから、敬称なんかもうつけてやるもんか。
「えっと、今はリズパイン人?そういう人種があるならだけど」
「今じゃなければ」
「地球人の中の日本人でした」
「ウアーッ!」
私はビタンッと泉に頭を突っ込んだ。
マジか、マジか、マジかーッ!異世界転生ってメジャーなの?誰でも経験しちゃえるもんなの?!
ブクブクと息を吐き出していたら、またもやアダムに腕を掴まれて引き上げられた。
「ちょっと、なにやってんだよ。死んじゃうだろ」
「このくらいじゃ死なないよ。アダムも……もうアダムでいいよね?ってか、アダムって呼ぶし。アダムも死んじゃって生き返った感じ?」
「あぁ、まぁ、そうだな。見た目とか全然違うし、思い出した時の年齢よりあっちの最後に記憶している年齢のが上だから、転移じゃなくて転生なんだろうな」
「おー!よくあるなんか原因があって思い出しちゃった的なやつね」
アダムは「よくはないだろう」と苦笑し、それからお互いのことをなんとなく話しだした。
アダムは東京に住んでいたフリーターで、年の離れた妹さんと二人暮らしだったんだって。私の髪の毛を編むのが上手なのは、妹さんの髪の毛を結っていたからなんだとか。ご両親が早くに亡くなって、生活の為にバイト掛け持ちして、かなりオーバーワークだったみたい。バイトの帰り道、歩道橋歩いているところで記憶が途切れているらしいから、倒れて過労死か階段から落ちて事故死したんじゃないかって。
「苦労したんだね!」と、思わず抱きしめたら、秒で逃げられたよ。
そうそう、アダムの日本人名は「新川」だってさ。
私のことは、セクシー女優とはさすがに言いにくいから、会社員と言っておいた。一応事務所所属だったし、撮影がない時は事務の仕事も手伝っていたし、あながち嘘でもないでしょ。死因は腹上死です!……もやっぱり言えないから、仕事中の不慮の事故ということにした。名前は名字の方の相田と名乗った。本名と芸名、「咲希」と「サキ」で音は一緒だから、万が一「サキ」の方を知ってたら……って、私も前世の面影0だからまさか結びつく筈ないか。それに、アダムみたいな真面目っぽいのが、AVとか見たとしても女優の名前覚えるくらいはまったりはしないよね。
生年月日を聞いたら私のが三歳年上みたいで、推定死亡年月日も私のが早いということがわかった。でも今の年齢は私のが四歳年下なんだよね。時間の流れが謎だ。
「ロッティは生まれた時から前世の記憶があるみたいだけど、記憶が薄れたりなくなったりすることはないのか?ほら、赤ん坊の時の記憶なんかないだろ」
「記憶の照合なんかしたことないから、本当に消えた記憶がないかと言われると『さぁね』としか言いようはないけれど、二十後半の人が中学生の時の記憶があるくらいには覚えてるんじゃないかな」
「それ、けっこう覚えてるな」
「うん、スチューが赤ん坊の私を抱っこしようとして落としたこととか、ティアが自分が壊した花瓶を、ハイハイした私が激突して壊したって嘘ついたことも覚えているよ。二人に怒りたかったのに、バブーしか言えなくてイライラしたもん」
「アハハハ。バブーか、可愛いな」
私は泉から上がると、石の上に座って顔をパタパタ扇いだ。話に熱中しすぎて温泉に浸かりすぎた。まだのぼせてはいないけれど、水分とらないとヤバイね。
私は鞄の中から水筒を出してゴクゴク飲むと、そのままアダムに差し出した。コップなんか上品な物は持ってきてないからね。
「あぁ、ありがとう」
アダムも泉から上がると、水筒から直飲みする。
上下に動く喉仏や、汗が伝わる素肌とか、無茶苦茶エロいな。こんなん、触りたくなっちゃうじゃん。アダムの生乳首、薄い茶色で可愛いな。
痴女よろしく、アダムの裸の上半身を視姦した。だって、好みの裸体が目の前にあったら見るよね?絶対に見る。なんならお触りありでお願いしたい。
よーく考えてみて。
二十七歳H大好きセクシー女優、それまで性欲を我慢することなく、趣味=仕事の恵まれた人生を歩んできたのよ。それが赤ん坊に転生して、やろうにもできない状態(赤ん坊や幼児じゃね)が続き、しかも肩書き王女様じゃ奔放にもなれないしで、やっと嫁いでエロエロな生活を送れると思いきや、嫁ぎ先変更でいまだ初夜なし、それどころかキスさえしてないからね!
十四年間の欲求不満が大爆発するっつうの。
「どうかした?」
「うーん、ちょっと湯あたりしたかなぁ」
少ししなをつくって「フーッ」と吐息混じりの息を吐いてみせ、ちょっと目力を落として切なげに見上げる。これで胸の谷間とか見せて、太腿チラ見せたりなんかしたら、普通の男なら飛びついてくるよね。相手が前世の私くらいナイスバディだったらだけどさ!
「そりゃまずいな。ほら、もっと水飲んで。もう着替えた方がいいけど、着替え持ってきたんだろ。僕、あっち行ってくるから着替えなよ。僕も着替えてくるから」
アダムは私が脱いだ服と、鞄から下着を出して私に渡した。さっきは透けた下着見て慌てたくせに、かぼちゃパンツ本体ならなんてことないんだね。逆に、こんなもっさりした下着を見られた私のがダメージ大きいよ。穴開きのエロエロ下着を見られたほうが、まだ恥ずかしくないかもしれない。
「コルセット、自分で外せないかも」
「それ、簡易コルセットだし前紐だよね」
ばれてーら。
アダムは自分の着替えを持って、離れたところの岩陰に引っ込んでしまった。
私はパパッと着替えを済ますと、なるべく音をたてないようにアダムが隠れた岩陰に忍び寄った。夫の着替えを覗き見する妻!犯罪にはならない……よね?
アダムは身体を丹念に拭いているところだった。もちろん、腰に巻いていたタオルで!つまりは、後ろ姿しか見えないけどスッポンポン。
マーベラス!!!
まさに理想のお尻。もう大好き!ウエストからヒップまでのなだらかなラインとか、引き締まって尻エクボがあるところとか……。指で押したら弾力が楽しそう。
「ハァッ……」
思わず漏れた感嘆のため息に、アダムが驚いたように振り返った。
「なにしてんの?!」
「え?覗き。旦那様の素晴らしい裸体を鑑賞しようかなって」
「男の裸なんか面白くもなんともないだろう?!」
タオルで前を隠していたから、アダムのアダム君は見えなかった。残念!
アダムはタオルをまたもや腰に巻いてしまい、その下で下着を着てしまう。
「チッ!」
「なんで舌打ち?!」
「興味津々なお年頃なの」
「前世と合わせたら何歳だよ?」
「そこは足したらいけないところ。フォーティーンとフォーティは似てるけど大いなる違いがありますからね!」
「アハハハ、確かに」
アダムは、爽やかに笑いながら素早くシャツにズボンを履いてしまう。
「湯あたりはどうした?」
「治りましたぁ」
「なにか怒ってる?ほら、髪の毛ちゃんと拭かないと、洋服が濡ちゃうだろ」
アダムは、私の髪の毛を丁寧にタオルに挟んで叩くようにして水分を拭ってくれる。ガシガシ拭くと、絡まってしまって後で大変なことになるから、この拭き方で大正解だ。髪の毛を結うだけじゃなく、こんなことまでしてくれるとか、尽くし体質かな?いや、違うな。これは……。
「アダムってさ、お兄ちゃん気質が抜けないんだね」
ってことだよね。
つまり、妹としか見れてないみたいな。立派に妻なんですけどね!
「あぁ、まぁ、確かにあいつも適当に拭くから、よく床水浸しにしてたな」
妹のことを思い出したのか、アダムは優しい目つきを私に向けてきた。その視線に心臓がドキリと音をたてる。
あれ?本当に湯あたりしたかな?なんか心臓がバクバクするぞ。
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