第11話 アダムとの二日目の(健全な)夜
「今日は王宮の南側を探索したよ」
私はモグモグお肉を食べながらアダムに話しかけた。
夕方に帰ってきたアダムは、しばらく執務室で仕事をしていたようなので、「お夕飯の時間だよ」と誘ったのだ。家族ならご飯は一緒に食べないとね。
「どうだった?誰か兄弟には会った?」
「アダム様の兄弟には会わなかったけど、第十五妃のエミリヤ様には会った……よ?」
ロザリーの話では、エミリヤに溺れたダニエル王が夫人達を蔑ろにしたことによりアダムが襲われた……ということだし、エミリヤの話題はアダムのトラウマにかすったりしないかなと様子を窺った。しかし、アダムは特に狼狽えることもなく、綺麗な所作で肉を切り分けて口に運んでいるから、エミリヤの話題はトラウマを刺激することはなかったらしい。
「なんていうか……永遠の十代?(学生服なんかこの世界にはないけど、セーラー服とか着ても違和感なさそう)若々しい方だね」
「そうだな。七年……になるか、後宮にいらしてから。全く容姿が変わらないのは彼女くらいだな」
ダニエル王は年相応(確かパパリンの二つ下の三十八だったと思う)よりもちょい渋めに見えるから、エミリヤ様と並ぶと犯罪感が半端なくない?私を見て「ロリコンは管轄外」とか言ってた癖に、エミリヤにはまるとか十分ロリコンの素質あるじゃんね……と言おうとして止めた。あんなんでも一応アダムの父親だし、みんなが「我が王」と敬ってる存在だから、下手なこと言って侍従達に嫌われたら生活しにくくなるからね。
「ロザリーはね、エミリヤ様はかなり図太くて逞しいタイプだって言ってたよ」
「彼女はエミリヤ様について長いから。でもまぁ、繊細なタイプだと後宮では生き残れないだろうな」
「アダム様のお母様もそんな感じ?」
一瞬、カトラリーを持つアダムの手が止まった。
「母は真逆のタイプ……かな。リズパインの大貴族の娘で、子供の時から陛下の婚約者だったんだ」
「でも第五妃だよね?」
「あぁ、第一から第四は他国のとはいえ王女様だったからね、大貴族とはいえただの貴族の娘が王族の上にはたてないって、婚姻が後回しにされたらしい」
「それ、酷くない?」
「そんなもんさ。まぁ、さすがに僕ができたから第五妃に滑り込んだらしいけど。じゃなきゃ下手したら夫人にもなれたかどうか」
まさかのデキ婚!
しかもダニエル王はすでに妃が四人もいたのに、長年の婚約者であったアダムママにも手を出していたのか。さすが絶倫王、節操なしだな!
「今も後宮にいるんでしょ?」
「いや、母は僕が成人した時に後宮から出されたよ」
「なんで?!」
後宮は入れ替え制なの?
「僕が腹にいる時から、毒を盛られたり暗殺されかけたりしていたらしい。今まで母が生きてこれたのは、陛下が母を顧みなかったからに他ならない」
「顧みなかった?囲い込むの間違いじゃないの?」
ダニエル王がアダムママを周りから守ったんじゃなくて、真逆に放置したってこと?
「ああ間違いじゃない。陛下が母を公の場で無視したり、名前すら呼ぶことをしなかったせいで、他の妃達は母を見下した。陛下に忘れ去られた可哀想な妃と。そんな可哀想な妃が産んだ王子は、たとえ第一王子であろうと、立太子することはないだろうと、いつの間にか公然の事実のように語られていたよ」
「情報操作したんだね。アダムママリンやアダムが狙われないように」
アダムは肩をすくめて見せた。
「どうかな?実際に陛下が母の元を訪れたことは一度もなかったし、僕も陛下と親子として接したことはない。本当に忘れ去っていただけかもしれないよ。立太子したといっても、陛下からしたら自分じゃなければ誰だって同じに見えただけだろう。ならば一番目に生まれた男子である僕でもいいか……ぐらいの考えしかないのかもしれない」
「後宮から出したのはなぜ?」
しかもアダムが成人した時ということは、アダムが立太子したことが理由としか思えない。
今までは忘れ去られた可哀想な妃としてスルーされてきたアダムママが、アダムが立太子したことによって妬みの的になったかもしれない。ただ嫌がらせされるだけならまだしも、嫌がらせが行き過ぎる可能性もあっただろう。特に平気で毒を盛る第二妃や、苛烈な性格の第三妃なんかがいるのだから。
「もういらないってことなんじゃないか?」
「それなら、以前みたいに無視してればよくない?
「同じ敷地にいるのさえ鬱陶しく思うようになったとか」
アダムの中では、ダニエル王とアダムママは仲が悪いものという固定観念が凝り固まっているようだ。そして何より自己肯定感が無茶苦茶低い!
つまりは根暗!
見た目は色気溢れる美形なのに、もったいなさすぎやしませんか?私にアダムみたいな見た目と肩書きがあれば、美女をわんさか囲って酒池肉林三昧間違いなしなのに。
私達は向かい側に座って食事をしていたのだが、私はテーブルを回ってアダムの隣に移動した。だって、テーブルが大き過ぎて、声だけじゃなく気持ちも届かなそうだったから。
「アダム様は一番頭が良かったから王太子に選ばれたんだって。ロザリーが言ってた。それに、アダムママリンのことだけど、何人も妃がいるのにママリンに手を出して妊娠させたのは、そこまでしないと結婚できなかったからじゃない?ズバリ、二人は好きあってた!」
「は?」
アダムは、いきなり隣に移動してきたことにも驚いたようだが、嫌い合ってると思っていた両親がまさかの両想いだとか言い出した私に、ポカンとした間抜け面を見せた。
うん、なんか可愛いぞその顔。
「アダムママリンを顧みなかったのだって、周りの目を誤魔化す為だよ。二人が仲良くしてたら、やっかみとか妬みとかで殺されちゃいそうじゃん。第一妃だって、毒殺されたって噂聞いたし」
「まぁ確かに十五名の妃のうち、四名の妃は不慮の死をむかえているけど」
「ゲッ!第一妃だけじゃないの?!」
「妃だけじゃない。夫人達はもっと……」
もっと……って。事故死とか病死じゃないんでしょ?男絡み、権力絡みの女の嫉妬って怖過ぎる!!
「じゃあやっぱりそうだよ!どうでも良かったから、勝手に死ねってタイプじゃんダニエル王って。よく知らんけど。だから後宮がドロドロのヘドロ状態でも放置なんでしょ。アダムママリンはズバリ!ダニエル王にとって死なせたくないくらい大事な相手ってことだよ。その大切な相手を手放してまでアダム様を王太子にしたかったんだよ。良かったね、アダム様!」
うん!絶対にそう!そうとしか思えない!
私は満面の笑顔でアダムの肩をバンバン叩いて喜びを示した。アダムはキョトンとした顔をしたが、フッと表情を緩めた。
「アダムママリンってなんだよ」
え?ずっとそう呼んでたけどいまさら?
私は口を尖らせて言い訳をする。
「だって名前知らなかったから」
「母の名前はスザンナだ」
「スザンナ様、スザンナ様……。よし、覚えた!アダム様、スザンナ様は今はどこにいるの?」
「五大貴族であるフォント公爵家に身を寄せている。今は母の兄が公爵だ」
「へー、五大公爵家かぁ。アダム様はバリバリのリズパイン人なんだね」
「バリバリ?リズパイン人?」
そうだった、この世界は元は単一民族からなっているから人種の違いって意識はないんだった。肌の色や髪目の色、顔立ちの違いなどはみんな個性としてとらえられている。
私からすれば、あまり凹凸が少なくてノッペリした顔立ちの私は日本人よりだし、目鼻立ちがくっきりしたアダムみたいなのは北欧系に見える。同じ祖先ですって言われたら、進化の闇を感じるね。
「アハハハ、なんでもないよ。いつかスザンナ様に会いに行こうね」
それはけっこう早くに実現するのだった。
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