第71話 5秒で方をつける

 王都市民大移動なる荒業をしているさなか、俺は、ルミアーナ、クスノハ、シルフィ、レオノーラさん、アルノルト侯爵、ムッソウ子爵、ツンデーレ男爵を呼びよせた。


 迎賓館の長テーブルに座り、アルファやベータたちの自動人形オートマトンがお茶出しをしている。イレーヌさん、ミレーヌさんには現場の指揮をお願いしてある。



「トーマ様、何があったのですか」



 レオノーラさんの問に皆さんが頷く。



「王都の騎士団がクーデターを起こすとの情報が入りました」


「なんと!」


「いや、遅いぐらいじゃな」



 驚く父殿に、さっさとやっとけと言うムッソウ子爵。



「ルミアーナ、どう思う?」


「……止めるべきですわね。国王が腐っているとはいえ、軍による政変は今後の私たちの政策とたもとをわかつ道を残しかねませんわ。悪い事例は作るべきではありませんわね。トーマ様はどうお考えでございますか?」


「俺も同意見だが、まあ、なんだ。同じ国民同士が殺しあうのは、どうかと思う。俺は人殺しとか、戦争とか苦手なんでね」


「青いな」



 ムッソウ子爵の重い言葉。この世界ではそうなんだろうけど、俺は平和な日本からきて、まだ二ヶ月も経っていないんだ。はい、そうですか、と人殺しを受け入れる事は出来そうにない。



「さて、結論としては俺もルミアーナもクーデターを止めたい。王都内が混乱している今は、彼らにとってもチャンスだ」



 俺はアルファが入れてくれたお茶を一口飲んだ。



「皆さんの力を貸してください」



 一同を見渡した俺。ムッソウ子爵と目が合うと、「フン」っと言って目を反らされた。


 あれ? 嫌われてる? あれか? 「僕に娘さんを下さい」イベントをやっていないからか?



「クスノハ、お前が行って、ガッツを倒してこい。話はそれで終わりだ」


「そうなのか?」



 ガッツって騎士団長だっけ? ルミアーナに視線を移したが、ルミアーナも、そうなの? 的な顔をしていた。



「あやつに理を説いても無駄じゃ。殴って言い聞かせるのが一番じゃ。剣聖となった今のクスノハであれば、ものの十秒で話が終わろう。よくぞそこまで強くなった」


「へへへ、トーマのお蔭だよ。なっ、トーマ」



 いや、俺は特に何もしていないぞ。てか、ムッソウ子爵が苦虫を潰したような顔で俺を睨んでいる。そして「ふん」と言って、そっぽを向かれた。


 やはり嫌われているらしいが、俺の問に答えてくれたのはムッソウ子爵だ。微妙な親心というやつか?



「シルフィっち、俺を城まで連れて行ってくれよ。五秒で片を付けてやるぜ」



 左の手のひらを、右のこぶしでパンと殴るクスノハ。額の剣紋が輝いたように見えた。



「レオノーラさん、クスノハと一緒に行って貰えますか? 理を唱えられる人が必要だ。クスノハだけでは、騎士団全員をぶっちボコボコにして終わりかねない」


「分かりました。ガッツ団長とは面識もありますので、説得してみます」


「ふん。全員のされて、スッキリさせた方がいいんじゃよ」


 

 ムッソウ子爵は武人らしく力押しを勧めているが、今度の事を思えば殴り合いは最小限に止めておきたい。


 クスノハが行きたくてムズムズしていたので、シルフィに頼んで、クスノハとレオノーラさんをお城に連れて行ってもらった。


 軍はこれでよしとして、あと気になるのは、国王派の貴族だが……。


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