第70話 カッコいい

 俺は迎賓館の応援室で一人、何するでもなくボーっとしていた。


 一万人の避難民に無償で食料を提供しないといけない。作戦実行前に俺とレオノーラさんは各地の貴族に挨拶をしつつ肉や野菜を集めていた。


 帝国の貴族は二極化していて、国王に付く腰巾着派と、国王に意を唱える反国王派だ。


 もちろん反国王派の所に手土産を持って訪問している。手土産のダイヤモンドのネックレスと最高級化粧水であるあまの水は、奥様たちには大好評で、食料集めは順調にいった。


 更には資金集めでダイヤモンドとあまの水の販売を行い、さすがは貴族の奥様、お嬢様はお目が高い! 結構な額の資金も集まり、それを元手に農家や商人から食料品を買い漁る。


 季節がら秋の収穫後という事もあって、かなりの量の食材が俺の異空間収納に収まっている。


 そして今、国王がわちゃわちゃしていては駄目との事で、皆んながゲートを使って、王都市民をこのアマノガワ王国に避難させている最中、ソファーに座りマッタリとしていたのだが、目の前の空間が歪み、シルフィと女の子三人が、俺の前に空間転移してきた。



「お兄様、大変です!」


「な、何だよ、いきなり跳んできて」



 シルフィが連れてきた女の子三人を見れば、リオンの記憶の中にあるクラスメイトだと、すぐに気が付いた。



「こ、こんにちは……いや、おはよう、か。ご無沙汰してます」



 リオンが教室で話をした記憶はないのだが、全く知らない仲ではないと思いたい。



「えっと、どちら様?」


「シルフィ様のお兄様って……?」


「……カッコいい」



 ハイ、知らない仲でした!



「えっとね、俺はリオン何だけど、今は色々あってトーマって名前を変えたんだ。だからトーマって呼んでくれないか?」



 そう言ってシルフィに目配せを送る。



「お、お兄様は、急にちょっと痩せちゃって、つ、ついでに名前を変えたの」




 三人の女の子はポカンと俺を見ている。



「ちょっと……じゃないですよね?」


「「……カッコいい」」


「そ、それで、シルフィの大変ってのは何なんだ?」



 あわわと、シルフィは口に手を当てて、三人の女の子たちに向きなおった。



「さっきのお話しをお兄様にしてください」


「えっ? えっと、何で彼に?」


「お兄様は――」



 えっへん、と何故か胸をはるシルフィ。



「お兄様は、トーマ・アマノガワ様。ここアマノガワ王国の国王様です。今回の件、お兄様がお力添えしてくれます!」



「えっ! 国王様ッ!」


「「キャァァァァ、カッコいいいい!」」



 あはは。で、大変ってなんだよ?




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